人は、聴いてもらえることで癒され、訊いてもらうことで動き出す。
だから、人の成長を願うなら、透明な心で言葉を交わすことから始めよう。
これは、私のキャリアカウンセリングに対する心がけの一つです。
「聴く」と「訊く」。
同じ「きく」という言葉にも二つの意味があります。
「聴く」は、いわゆる傾聴と言われるような、無条件に相手の気持ちを受け入れるという聞き方で、カウンセリングのようなイメージです。
人は、批判や偏見を抜きにして、ただ自分の話を受け入れてもらえると、自然に心が癒されていくものです。
「訊く」は、一般的にコーチングと言われるようなイメージで、質問する聞き方です。
人は、一方的に指示されるよりも、適切な質問を受けることで、自ら考え自ら行動しやすくなります。
この二つの聞き方を適切に統合することが、キャリアカウンセリングのポイントになります。
しかし、この聞き方も、人の心を操作しようとか、意図的に誘導しようとか、そういった「邪心」のようなものが入ると、却って逆効果になってしまいます。
その「邪心」は、必ず相手に見抜かれます。
それは、ハッキリとはわからなくても、漠然とした「違和感」として現れたりします。
だから、人と向き合うときは、自分の心を「透明」な状態にしておくことが、とても大切なのです。
そのような私の想いを込めたのが、冒頭に書いた言葉です。
実は、キャリアカウンセリングの心がけと書きましたが、他の場面でも当てはまる言葉だと思っています。
例えば、会社の上司と部下で相対する目標面談の場面。
上司として、部下の今までの仕事にかけた想いや実績を「聴く」、カウンセリング的な関り。
そして、部下が次のステップへと成長するための課題について「訊く」、コーチング的な関り。
その場において、自らの先入観や偏見を、そっと脇に置いて、目の前の部下のありのままの姿に関心を寄せる「透明な心」。
上司が、このような姿勢で面談に臨んでいれば、部下の信頼感も高まり、評価についても納得しやすい場になるはずです。
私も、企業に勤めていた時は、マネジャーとして、そのような場を経験してきました。
その時から、「聴く」と「訊く」、そして「透明な心」を意識してきました。
つまり、それはキャリアカウンセリングではなく、マネジメントの経験から得た心がけなのです。
著名なカウンセラーである東山紘久氏が書いた、「プロカウンセラーのコミュニケーション術」という本の中に、こんな言葉があります。

- 作者: 東山紘久
- 出版社/メーカー: 創元社
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: 単行本
「職場やグループが葛藤を起こしているところと、そうでないところの差は、リーダーや上司の人格の大きさの差です」
「個人から世界まで、人間の問題を解決するには、人格の器を大きくする以外にはありません」
私は、この本を企業でマネジャーをやっていたときに読みましたが、この言葉が特に強く心に染み込んできました。
「透明な心」を保つにも、「人格の器」が大きくなければならないでしょう。
どうしても、上司からすると部下の欠点が目に付きがちで、直接その部分を直したいと思いがちです。
でも、そこで、あえて自分の胸に手を当て、「人格の器」の大きさを見つめ直してみる。
そして、部下の成長の伸びしろよりも大きく、自らの人格の器を大きくするような、「人間力」の修行に打ち込んでみる。
そうすれば、その上司の背中を見て、自ずから部下が成長していくことでしょう。