

「いつまでも自分らしく生きたい」 そんな風に思う人は多いと思います。
確かに、自分らしい個性を大切にして生きるのはとても大切なことかも知れません。 きっと、その方がのびのびと生きられると思います。
でも、「自分らしさ」にこだわるあまり変化することを拒んでしまうと、かえって生きるのが辛くなってしまう時もあるのではないでしょうか・・・?
「最もよい状態での『生きること』は、そのなかでは何ひとつ固定されることのない、流れるような、変化していくプロセスだ」
これは、カール・ロジャースという大変有名なカウンセラーの言葉です。 やはり、カウンセリングの大家だけあって、とても深い言葉だと思います。
この言葉から、私なりに感じる事があります。 きっと、「自分らしく」生きるとは、一つの生き方にこだわることではないのでしょう。
言い換えてみれば・・・。
「自分だけにしか出来ない変化を続けることが、『自分らしく』生きること」
奇しくも、高名な分子生物学者のルドルフ・シェーンハイマーも、カール・ロジャースと同じことを言っています。
「生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化してやまない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である」
ちょっと小難しい感じがする言い回しですが・・・。
カウンセラーも分子生物学者も、「生きる」ことを突き詰めた結果、「生きることは変わること」という同じ結論にたどり着いたというのは、とても興味深く感じます。
では、経営学の世界ではどうでしょうか?
コロンビア大学ビジネススクール教授のリタ・マグレイスは、ベストセラーとなった著書「競争優位の終焉」の中で、成功し続ける企業に関する研究成果を踏まえて、こう述べています。
「今日の戦略シナリオは、一時的な競争優位という概念に基づく必要がある。競争優位がもはや長期間持続しない場合、どこで、どう競争し、どうやって勝つかは、従来とはまるで異なる問題となるのである」
「私の研究によると、安定が正常で変化が異常というわけではない。実は話が逆なのだ。熾烈な競争環境では、変化ではなく安定こそがもっとも危険な状態なのである」
「安定という仮定はあらゆる間違った反応を引き起こす。既存のビジネスモデルに沿おうとする惰性と力を強める。人々の精神を型にはめ、習慣に従わせる」
つまり、変化のスピートが激しくなり続けるこれからの時代においては、組織も人も、一時的な成功に安住せず、変わり続けなければならないのです。
詳しくは「競争優位の終焉」を読んでいただければと思いますが、個人に対してはこう提言されています。
「ますます多くの人々のキャリアにとって『変化』が基準となる」
「私は、競争優位は衰えるものだと覚悟を決めるよう企業に勧めている。個人にも同じように腹を固め、そのつもりでキャリアを計画するよう勧めたい。要するに、現実的に見てキャリア・マネジメントに終わりはないということだ」
往々にして、変わることは痛みを伴うこともあるでしょう。
でも、生きることに希望を持ち続けるならば、誰でも、きっとその痛みを乗り越えて変わることが出来ると思います。
なぜなら、私たちが「生命」であるならば、先に引用したルドルフ・シェーンハイマーの言葉をこう言い換えることができるからです。
「変化こそが私たちの真の姿である」