人が、まずは自分自身や家族が平穏に暮らせれば良いと願い、その実現のための行動を優先させることは、ごく自然なことでしょう。
しかし、自分の家庭の基盤となっている社会そのものに危機が訪れているとすれば、そのような行動も結局は無意味になってしまうのではないでしょうか?
福島のように、
原子力発電のシステムから派生する事故が起これば、人は貧富や地位の差に関係なく
放射能に侵される事態になります。
現代は社会の複雑性や相互依存性が高まり、環境変化のスピードが加速し、問題が大規模化しています。
日々ニュースを見れば、
原子力発電以外にも、大げさに言えば人類の存続を脅かしかねないような大問題が、数多くあることを実感させられます。
つまり、個人として平穏な暮らしを築けたとしても、大局的な問題が解決されなければ、砂上の楼閣のように崩壊の脅威にさらされ続ける時代になっているのです。
その答えの一つが、
多摩大学大学院研究科長の徳岡晃一郎教授が提唱する、「イノベーターシップ」だと思います。
徳岡教授は、新著「未来を構想し、現実を変えていく イノベーターシップ」の中で、「イノベーターシップ」のコンセプトについて、以下のように書いています。
「イノベーターシップとは、マネジメント、リーダーシップを超える第三の力である」
「それ(マネジメント・リーダーシップ)に対して、イノベーターシップは一歩先を行く。新しい世界や新しい社会を構想し、そこへ向けて自分がなすべきことを考え出し、主体的に実践していく力だ」
つまり、まず、自分や自分が所属するコミュニティが幸福になるためにも、理想的な社会の姿を自ら考え、大局的な視座に立ち、その実現のために「使命」を果たす行動をとることだと言えるでしょう。
例えば、企業の中では、自部門の業務を滞りなく進めるためのマネジメントを担い、さらなる改善に向けてリーダーシップを発揮することも重要でしょう。
しかし、前述のように社会の複雑性が高まっている時代には、会社そのものが常に脅威にさらされている状況になっているので、自部門の業務を平穏に進めることを優先していては、いずれ自分の首を絞めることになりかねないのです。
そのような状況から脱するには、やはり「イノベーターシップ」の発揮が必要になります。
では、そのためにはどうすれば良いのか?
徳岡教授は、同書の中で、イノベーターシップに必要な5つの力を挙げています。
・未来構想力〜大きな夢を描けるか
・実践知〜適時適切な判断を下せるか
・突破力〜「しがらみ」を打破できるか
・パイ(π)型ベース〜知見の深さと広さを併せ持っているか
・場づくり力〜人々をつなげ、知を共創するハブになっているか
イノベーションを起こす人材に必要な能力については、他にもいろいろなモデルがあります。
例えば、有名なクレイトン・クリステンセン教授は、著書「
イノベーションのDNA」で、「破壊的イノベーターのための5つのスキル」を提唱しています。
その内容は、このブログでも以前紹介したので、過去記事を参照してください。
http://www.yuichi-igarashi.com/hr/2012/02/post-bf57.html
クリステンセン教授らのモデルでは、あくまでも「スキル」として、どちらかといえば「やり方」が主となっているように感じます。
それに対して、「イノベーターシップ」では、イノベーターとしての「在り方」を5つの力として問うているように感じます。
例えば、徳岡教授は、「未来構想力」について、こう書いています。
「未来のビジョンは理論や分析から出てくるものではない。またアイディアや技術などのシーズから始めるものではない。それは手段にしかすぎず、どんどん進化してしまう。未来とは予想するものではなく実現するものだという立場に立てば、それは自分の『思い』からしか出てこない」
言い換えれば、イノベーターシップの基盤は「信念・使命感」だと言えるでしょう。
まずは、「信念・使命感」を持ち
ビジネスパーソンとしての「在り方」を確固にした上で、「スキル」を生かしていくべきなのです。
クリステンセン教授のモデルも意義あるものだと思いますが、やはり、最も大切なのは「在り方」の方ではないでしょうか。
一般的な
ビジネスパーソンにとって、「新しい世界や新しい社会を構想」し、自らの「在り方」を問い直すことは、なんとなく日々の生活からはかけ離れたことのように感じられるかもしれません。
しかし、複雑化した
現代社会においては、
「人類を守れなければ、自分も家族も守れない」状況になっていることは確かだと思います。
徳岡教授はこう書いています。
「スケールの大小はあっても、自分たちのコミュニティを本当の意味で救おうとする動機は、誰しもが持っているものではないだろうか」
「そう、イノベーターシップとは、人間らしさを発揮することそのものなのだ。それをより大きな土俵で繰り広げることが今は期待されている」
「イノベーターシップ」を発揮する
ビジネスパーソンが増えていけば、世の中はより良い方向に動いてくと思います。それは思うほど難しいことではなく、人間としての自然な感覚に立ち戻れば、誰にでもできることのように思えます。
同書には「イノベーターシップ」を磨くための、具体的なトレーニング方法もとてもわかりやすく書いてあります。
より多くの人に読まれ、「イノベーターシップ」を発揮する人が増えていくことを願っています。