ソーシャル・キャリアコンサルタント 五十嵐郁一 Official Blog

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眠くならない研修・セミナーを企画するために知っておくべきこと


会社で実施される研修やセミナーを、受講する立場の社員の方々にとって、「眠気対策」は切実な問題のようです。
例えば、Google等で「研修 眠気対策」のようなキーワードを検索すると、以下の例のような切実な相談が意外と多くヒットします。


この相談の例は、「研修中に寝るのは失礼だ!けしからん!」と言っていた部長さんも、やはり寝てしまった研修のようですが・・・(笑)

受講者と逆の立場である、研修を実施する側の人事部や上司、講師の方々からすると、言語道断な感じがするかもしれませんが、眠くなるのは受講者の方々が悪いのでしょうか?

インストラクショナル・デザインの世界では、上記の部長さんのような発言をする姿勢のことを「個人攻撃の罠」と呼んでいます。

「個人攻撃の罠」とは、教える側が、学ぶべき内容が伝わらないことを受講者側の能力・適性や意欲に原因があると考え、自らの教えるスキルや学習プログラムの改善を怠ってしまうということを指す言葉です。

インストラクショナル・デザインの理論では、まず、研修やセミナーを提供する側が、この「個人攻撃の罠」から脱却することが、効果的な学習プログラムのデザインの前提となっています。

つまり、最も効果的な「研修中の眠気対策」とは、「研修の進め方・教え方の改善」なのです。

では、受講者が、眠くならずに「もっと学びたい」と思うような意欲を引き出すにはどうすれば良いのでしょうか?

そのためには、学習への意欲を引き出すための「デザイン」が必要になります。

その「学習意欲のデザイン」の基本となるのが、フロリダ州立大学大学院教授のJ・M・ケラーが提唱した「ARCSモデル」です。

それは、以下のようなとてもシンプルなモデルです。
(出典:「学習意欲をデザインする」北大路書房)

■注意(Attention)
学習者の関心を獲得する。学ぶ好奇心を刺激する。

■関連性(Relevance)
学習者の肯定的な態度に作用する個人的ニーズやゴールを満たす。

■自信(Confidence)
学習者が成功出来ること、また、成功は自分たちの工夫次第であることを確信・実感するための助けをする。

■満足感(Satisfaction)
(内的と外的)報酬によって達成を強化する。

このモデルに沿った様々な手法を組み込んで、学習プログラムをデザインすれば、「眠くならない研修」をつくることができます。

そのデザインを実践するために知っておくべき具体的な手順や理論については、J・M・ケラーの著書「学習意欲をデザインする」に詳細に記載されています。

ARCSモデルに基づいた学習プログラムをデザインするプロセスで最も重要となることについて、ケラーは同書の中で以下のように書いています。

「このプロセスにおける重要な成功要因は学習者分析である」
(P59)

例えば、「関連性(Relevance)」においては、学習者が望む目的と学習の目標が合致していることを理解してもらうことで、意欲を引き出すことが重要になります。

そのためには、学習プログラムをデザインする人が、「学習者が何を望んでいるか?学ぶことで何を実現したいと思っているか?」というようなことを明確に理解している必要があります。

つまり、「学習意欲のデザイナー」には、学習者に対して純粋な関心を寄せ、本人が期待する成長を支援しようとする誠実さが求められるということです。

また、研修の進め方において、受講者を退屈させないように、冗談を言って笑わせたり、面白おかしく自らの体験を話したりするのが良いと考える講師の方もいらっしゃいます。

ケラーはこう書いています。

「動機づけ方策は学習目標の達成を支援するためのものでなければならない。時に動機づけのための工夫によってインストラクションは楽しく、愉快にさえなる。しかしながら、それは学習の目的や内容に学習者を引き込むようでなければ、学習を促進するものにならない。」
「学習意欲のデザインは、単におもしろくさせることにならないように、インストラクションを魅力的にする方法を考えるものである。」
(P26)

つまり、学習意欲のデザインは、受講者が退屈するのを防ぐためにエンターテイメント化することではなく、あくまでも心理学等の理論に基づいて学習そのものに対するモチベーションを高めるために、計画的・戦略的に、方策を考えることなのです。

最近では、ゲーミフィケーションという概念が注目され、ゲームを組み込んだ研修も増えています。
そのような研修でも、学習効果が高いものは、学習目標達成に繋がる行動科学や認知心理学等の知見をベースに、ゲームが緻密に設計されています。

「学習意欲をデザインする」には、ARCSモデルの根拠となる心理学理論の概要から、実際に学習意欲を引き出すプログラムをデザインするためのワークシートのサンプルまで、幅広い内容について解説されています。

まさに、理論と実践について体系的に学ぶことができるので、研修・セミナーを企画する立場で、「研修の眠気対策」に悩んでいる方には、とても役立つ本だと思います。