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企業の人材開発部門も「ブランド」にできる

自社の人材開発部門の実績に満足しているビジネスリーダーはわずか20%程度。
これが、過去10年間に実施された様々な調査で導きだされた結果です。
(出典:「企業内学習入門」英治出版

人事や人材開発に関わる部署で働いている人たちにとっては残念な結果ですが、これからその地位を向上させていくことは決して不可能ではないでしょう。

以前の記事でも紹介しましたが、経営コンサルタントのトム・ピーターズもこう言っています。

「たとえ会社の中の一部門であっても、自分たちは独立した企業体なのだという気概と誇りを、私はみなさんにもってほしい。その気概と誇りをもつためには、明確なビジョンが必要になる。自分たちは何を大切にしているのか、何のために戦うのか、何を実現するために頑張るのかーそれをはっきりさせる必要がある。」

確かにもっともだと思いますが、このようなことを実践している人材開発部門は実際にあるのでしょうか?

その実例となる企業が、ナイキです。

下のリンクは、YouTubeにアップロードされている、ナイキのグローバル人材開発部門「ナイキU」の紹介ビデオです。
企業内の人材開発部門がこのようなビデオを制作するのは、まだまだ珍しいことだと思いますが、一見すればトム・ピーターズの言葉を実践していることがわかるでしょう。


なぜ、ナイキはわざわざこのようなビデオを制作したのでしょうか?

この問いに対する答えについては、「企業内学習入門」という本に記載されています。
(以下のリンクを参照してください)



ナイキのグローバル人材開発部門(GTD)は、2009年に、バラバラだった学習チームが統合され、幅広い教育ソリューションを提供するグローバルな機能部門となりましたが、大きな2つの課題に直面していました。

まず、全体的な整合性を保ちつつ、同時に各事業部門・各地域の個別のニーズを満たす運営モデルを確立すること。 そして、学習チームのメンバーにグローバルなマインドセットを植え付けること。

ナイキにCLO(最高学習責任者)として招聘されたアンドリュー・キルショーは、この課題を解決するために何が必要かを考えました。

「この2つの課題を解決するためには、GTDという部門とその活動を1つに束ね、かつ、ローカルな活動を可能にするような何かを生み出す必要があるーそれはチームのメンバーに、グローバルに考え、ローカルに行動することを促すものでなければならない。つまり、彼は新たな運営モデルだけでなく、すべてを接着させる魅力的なブランドを必要としていたのである」
(P229)

つまり、チームのメンバーと学習の対象となるナイキ社員が、学習に対する価値観を共有することで、グローバルとローカルのバランスが取れた円滑な教育の運営を可能にするために、部門を「ブランド」化したのです。

そのために、次のような問いを自らに投げかけました。

「世界最大級のブランド企業にとって、学習ブランドはどのようなものであるべきか?」

それは、チームが、学習サービスを提供する対象となる社員からどのように見られたいかを考えるということでした。

その結果、以下の5つの指針が特定されました。

1.気軽にアクセス出来る
2.一緒に仕事がしやすい
3.単に学習を提供するだけでなく、学習の触媒となってくれる
4.適切な学習を、適切な時に、適切な方法で提供してくれる
5.ナイキの歴史や遺産によって1つにまとまっている


そして、包括的な学習ブランド名を「ナイキU」として、社内外の専門家の支援を仰ぎ、様々なブランディングを進めていきました。

それは、どのような効果を生んだのでしょうか?

「新たなブランドを構築することは非常に骨の折れる仕事である。しかし、その威力には凄まじいものがある。さらにGTDという部門にとって、それは戦略的に極めて重要な意味を持っていた。なぜなら、ブランドのおかげで組織が1つに束ねられ、より柔軟で、ローカライズ度が高く、バラエティに富んだサービスが提供出来るようになったからだ」
(P230)

先に紹介したビデオを見れば、誰でもそのブランド効果の大きさを実感出来るのではないでしょうか。

では、人材開発部門が「ブランド」になるということは、ナイキだけの特殊な課題に対する特殊な打ち手だったのでしょうか?

「企業内学習入門」には、こう書かれています。

「ラーニング部門は学習に対してますます大きな責任を負わされている。その一方で、部門の成功は、ますます学習者のモチベーションに左右されるようになってきているのだ。こうした難問を前にして、ただ手をこまねいているだけでは失敗は避けられない。ブランディングはその解決策の鍵を握る部分である。ー明確なブランド戦略を持たない限り、成功出来る見込みはほとんどないだろう。」
(P236)


必ずしも、ナイキのようにビデオを制作するなど、見た目にこだわる必要はないにしても、学習サービスを提供する社員にとって何が魅力になるかを考え抜くことは、全ての人材開発部門にとって不可欠です。

そして、それを効果的に伝え、学習に対する社員のモチベーションや学習の重要性に対するビジネスリーダーの認知を高めるために、「ブランド」を意識することは大きな前進に繋がるでしょう。