ソーシャル・キャリアコンサルタント 五十嵐郁一 Official Blog

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競争力を維持し続ける企業は「守・破・離」を貫徹する

 

 

日本の武道の世界では、「守・破・離」という言葉がよく使われます。
簡単に言えば、最初は師匠の教えを型に沿って忠実に守り、ゆくゆくは自分で独自の道を見いだすということです。
 
その「守・破・離」をビジネスの世界で愚直に実践し、勝ち続けている企業がトヨタです。

 

日本の高度成長期を支えたメーカーの多くは、アメリカの品質管理の大家であったデミング博士の考え方を学びました。
例えば、PDCAという考え方が日本のビジネスパーソンに根付いているのも、デミング博士の功績です。
 
中でも、トヨタは、特にデミング博士の思想を忠実に徹底的に実践し続けてきました。
 
ミシガン大学教授で長期にわたってトヨタの研究を続けてきた、ジェフリー・K・ライカーは、著書「ザ・トヨタウェイ(日経BP社)」の中で、こう書いています。
 
「また、彼(デミング博士)は、顧客に『社内顧客』を加えることによって顧客の定義を大幅に拡張した。
デミング博士の教えに従えば、生産ラインやビジネスプロセス上にいる全員が顧客であり、彼らが必要としているものを必要としているときに必要とする量だけ供給することが重要となる。
これが、デミング博士の『次行程はお客さま』という考え方の始まりだった。
この言葉は、前行程は後行程に従わなければならないということであり、JIT(ジャスト・イン・タイム)において最も重要な言葉のひとつになった。この考え方なしにJITは成り立たない」
(上巻P78)

 

引用文中のJIT(ジャスト・イン・タイム)は、「自働化」と共にトヨタ生産システム(TPS)を構成する二本柱の一つです。

 

つまり、トヨタの「守・破・離」の実践とは、以下のようなことになります。
  
まずはデミング博士の教えを忠実に守りながら(守)、絶え間ない改善を続け(破)、トヨタ生産システムという独自の道を見いだし、愚直に徹底して歩み続けている(離)。
 
「ザ・トヨタウェイ」にはこう書かれています。
 
「TPSの活動は、必ず『顧客はこの工程から何を欲しがっているのか』という質問から始まる(顧客とは社外の最終顧客と、次工程以降の社内顧客の両方を指す)。これで価値が決まる。顧客の目を通して工程を見つめると、付加価値のついている工程とついていない工程を見分けることができる。これは、製造、情報処理、サービスといったあらゆる工程に適用出来る」
(上巻P85)
 
言葉だけで見ると当たり前に見えるのですが、そのシンプルな教えを実践して独自の手法を作り上げ、継続していくのはかなり大変なことで、それができるかどうかが企業の持続的成長の分かれ目と言えるでしょう。
 
では、なぜトヨタにはそれができるのでしょうか?
 
その答えの一つは、社員が持っている「『顧客』に対する使命感の強さ」だと言えるでしょう。

 

「ザ・トヨタウェイ」にはこう書かれています。
 
トヨタの日本や米国にある開発、購買、製造拠点を訪問するたびに、際立っている点がひとつだけある。私が話した社員全員が、単に給料を稼ぐ以上の目的意識を持っていたことだ。」

 

「彼らは、日本人のセンセイ(メンター)からトヨタウェイを学んでおり、そのメッセージは一貫している。
トヨタとその従業員と顧客と社会全体に対して正しいことを行いなさい』
トヨタの持つ強い使命感と顧客、社会全体に対するコミットメントは、『トヨタウェイの他の全ての原則の土台』であり、トヨタを真似しようとしているほとんどの企業に欠けている要素である。」
(上巻P152)
 
つまり、社員に顧客に奉仕する強い想いが無ければ、工程から無駄を省いていこうとするような行動を、本気でやろうとはしないということです。
 
トヨタ生産システムはあまりにも有名なので、その手法を学んで導入しようとする企業は多いですが、必ずしも成功するとは限らないようです。
 
その成功の可否を決定づけるのは、上に引用したような「トヨタとその従業員と顧客と社会全体に対して正しいことを行いなさい」という、「トヨタウェイ」に根ざした価値観に対する、社員の信念の強さだと言っても良いでしょう。
 
トヨタウェイとは、トヨタが全世界の社員が共有すべき価値観や手法を2001年に明文化したものです。以下のURLを参照してください。
 
社内向けのトヨタウェイの解説書には、「チャレンジ」についてこう書かれているそうです。

 

「我々は困難に直面しても意欲や活力をいささかも殺がれずに、創造的な勇気を持って立ち向かい、自分たちの夢をかなえる。我々は自分の仕事に精力的に楽観的に自分たちの社会への貢献を信じて取り組む」
 
つまり、トヨタにおけるチャレンジとは、社会に何らかの貢献をするという「公共善」を自分の夢として、その実現に立ち向かうということなのでしょう。
 
そのようなトヨタの姿勢から、企業の競争力を高めるには、以下のような流れが重要であることが学べると思います。
 
・企業が社会における公共善の実現を理念として実践している
  ↓
・社員が、社会を構成している「顧客」への奉仕に対する信念を持っている
  ↓(だから)
・社員が本気で顧客にとって本当に価値のあることは何かを考え抜く
  ↓(だから)
・社員が自らの仕事において顧客価値に繋がらないムダを徹底的に省く(効率化)
・社員が新しい顧客価値に繋がる製品やサービスを生み出す(イノベーション
  ↓(だから)
・企業の競争力が高まる
 
このような流れをつくるには、やはりリーダーの存在が重要になるでしょう。
 
では、どのようなリーダーがこのような流れをつくるのでしょうか?
 
「ザ・トヨタウェイ」にはこう書かれています。
 
トヨタの歴史上の偉大なリーダーを見ると、みんな次の共通点があることが分かる。
トヨタが社会の付加価値を高めるという長期的目的に集中している
トヨタウェイのDNAから決して外れることなく、この教えに忠実に生き、手本となった
・実務をこなしてトヨタウェイを磨き上げ、実際に付加価値作業が行われている現場に通い続けた。
・問題発生を部下を教育する好機であると前向きに考えた」
(下巻P66)
 
このようなトヨタのリーダーの特性を見ても、社会に貢献するという理念と現場の作業が繋がっていることが重要であることが分かります。
 
業種や規模は違っても、様々な課題に直面している企業で働く人々にとって、トヨタから学んで参考にできることは多いと思います。
まずは、トヨタを「センセイ」にして、「守・破・離」を実践してみると良いかもしれません。
 
トヨタの人材育成については以下の過去記事を参照してください。