

多様な能力や価値観を持つ組織のメン
バーが一つに結束して成果を出すための必須条件とは何でしょうか?
最も大切なのは、メン
バー全員が共通の「目的」を共有していることです。
では、企業において、組織の「目的」とは何でしょうか?
それは、「利益を出すこと」と答える人が多いかもしれません。
また、それぞれ自分が所属している組織で設定された、売上高などの「目標」を達成することと答える人もいるかもしれません。
では、「利益」、「目標」、それが「目的」だと考える組織はうまく動いているのでしょうか・・・?
元
スタンフォード大学経営大学院教授の、ジェームズ・C・コリンズは、持続的成長を遂げている偉大な企業と衰退する企業の差異を調査した結果として得た知見の一つについて、著書「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」の中で、こう書いています。
「永続する偉大な企業は、株主に収益を提供するだけのために事業を行っているわけではない。ほんとうの意味で偉大な企業にとって、利益とキャッシュフローは健全な体にとっての血と水のようなものである。生きていくためには必要不可欠なものだが、生きていく目的ではない」
「企業はこれまで、利益や株価といった経済的な価値ばかり追求してきた。しかし、これは短期的で、了見の狭い考え方である。これからは、経済的価値と社会的価値を両立させる必要がある」
つまり、企業にとって、「利益」とはあくまでも「手段」であって、「目的」ではないという考え方が、グローバルな潮流になっているのです。
では、どのような「目的」に対する考え方が、
企業価値を高めるのでしょうか?
リーマンショック以降の世界では、社会的価値と経済的価値を同時に実現するという、「共通価値の創造(
CSV)」と呼ばれる考え方が主流となっています。
また、以下のような「コンシャス・
キャピタリズム」という考え方も注目されています。
「社会や地球環境を第一義に考えることで、言い換えれば、共通善としての目的を追求することで、利益を生み出される、という考え方を示しています。これは、顧客にとっての社会的価値を実現すること以上の高みを目指すものであり、資本主義の次なるありかたを示唆しています。」
これからの時代は、このような、利他の思想に立って経営を行う企業が、より顧客からの支持を得て、短期的な利益を得るのみでなく持続的成長を遂げると考えられているのです。
では、企業においてどのように「公共善」と繋がる良き目的を設定すれば良いのか?
また、その目的を、現実の企業活動の実践や個人の業務を通して、どう実現していくのか?
そのような問いに答える方法論として、「目的工学」という概念が、
東京大学i.schoolのエグゼクティブフェローでもある
多摩大学大学院の紺野登教授を中心とした目的工学研究所から提唱されています。
「目的工学」を実践するための具体的な体系は、紺野教授の著書、『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーー
ドラッカー、
松下幸之助、
稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』に書かれています。
先に書いたようなことは理想的ではありますが、現実の企業の中では、上から降ってきた目標に従い、目の前の仕事をこなしているだけと感じながら働いている人々が多いのではないでしょうか?
それは、本来は、手段である利益や目標が、目的とはき違えられてしまっていたり、目的そのものを喪失してしまっているようなことが原因です。
多くの企業では以下のような状況となっていると、本書では指摘しています。
「そのせいで、たとえば、みんな決められたことだけを粛々とこなす、組織の縦割り化やタコツボ化が起こっている、クロス・ファンクショナル(職能横断)・チームをつくってもうまく機能しない、改革や新規事業はとん挫する、イノベーションが生まれてこない、といったことが常態化しています。」
このような状況を、本書では、「目標の奴隷」と呼んでいます。
「目的」と「目標」の違いについては、以下の図を参照してください。
※出典:ダイヤモンドオンライン
目的と目標は似て非なるものである。あなたは「目標の奴隷」になっていないか?
一言で言えば、組織のメン
バーを「目標の奴隷」から解放し、企業本来の目的を実現するため方法論が「目的工学」なのです。
本書には、こう書かれています。
「大目的に向かってメンバー全員を一体化するための方法論、これが目的工学の目指すところです。そしてその大目的は言うまでもなく、『世界中の人々の幸福』を企業や組織、個人が実現する道筋を見いだすことです。」
本書を読んで、自組織で試行錯誤しながら実践していけば、より社会にとって役に立つ創造的な成果を生み出せると思います。
現実的に実践が難しくても、常に「この仕事の本来の目的は何か?」という問いを自らに発する習慣を持つだけでも、仕事の質を高めることに繋がっていくことでしょう。