ソーシャル・キャリアコンサルタント 五十嵐郁一 Official Blog

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持続的にリーダーが育つ「自己再生能力」の高い組織をつくるためのヒント


「偉大な企業を導いた十一人のCEOのうち十人は社内からの昇進であり、うち三人は創業一族の一員である。比較対象企業は外部の人材を招聘した頻度が六倍も高かったが、偉大な実績を持続させることができなかった」

これは、元スタンフォード大学経営大学院教授の、ジェームズ・C・コリンズが、持続的成長を遂げている偉大な企業と衰退する企業の差異を調査した結果として得た知見の一つです。
(出典:「ビジョナリーカンパニー2」P51)

もちろん、社内から昇進させるから良いという訳ではありませんが、偉大な企業は、前の記事で取り上げたGEのように、採用からマネジャー・経営者まで一貫して内部で育てる仕組みができています。

そのような仕組みは、一般的には「サクセッション・プラン(Succession Plan)」と呼ばれています。
日本では「後継者育成計画」と訳されることが多いようです。
元々は、ファミリー企業の後継者や、CEOの後継を計画するようなものとされてきました。

では、「サクセッション・プラン」とは「経営の天才」を選抜するためのものなのでしょうか?

ジェームズ・C・コリンズは、著書「ビジョナリーカンパニー2」の中でこう書いています。

「飛躍した企業が層の厚い協力な経営陣を築き上げているのに対して、比較対象企業では、『一人の天才を一千人で支える』方式をとっている場合が多いことが印象的であった」(P73)

言い変えれば、「一人の将軍と一千人の兵隊」に分かれてしまうような組織は脆いということです。

現在、重要視されている「サクセッション・プラン」とは、そのような脆い組織になるのを避けるために、「一千人の兵隊」がいつでもリーダーになれるように、計画的に育成していくことを目的としています。

世界最大の人材開発団体「ATD(ASTDから名称変更)」では、サクセッション・プランをこう定義しています。

「適切な人々を、適切な場所へ、適切なタイミングで配置すること」

具体的には、継続的に組織の将来のリーダーを特定し、リーダーの役割を果たすことができるよう育成するプロセスであると言えます。

また、対象となるリーダーのポジションも、いわゆる社長や役員などのトップマネジメントに限定されるのではなく、それぞれの会社の施策や戦略により、どのレベルの階層まで含めるかは多様な選択肢となります。

では、実際にはどのように「サクセッションプラン」を作り上げればよいのでしょうか?

そのための実践的なテキストが、ASTD Training Basicsシリーズの一冊である、「サクセッションプランの基本」です。

先に書いた、サクセッションプランのそもそもの定義から、実際に使うツールのサンプルまで、基本的且つ重要な事項が網羅されています。

例えば、成功しているサクセッション・プランに共通するポイントとして、「サクセッションプランの基本」には、以下のようなことが挙げられています。

・社員に積極的に参加してもらうために、トップマネジメントの継続的な支援を取り付けること
・組織の戦略と整合していること
・組織の中の様々な階層や分野の代表を集め、多様性の高いチームを作って推進すること
・候補者に選ばれるために、どのようなコンピテンシーを開発すべきなのかを社員が認識すること
・システマティックな手法を使うこと
・シンプルであること
・社員からの意見を聴くことが可能な、オープンなコミュニケーションから成り立っていること
・評価し、説明責任を果たし、適切なフォローアップができるような測定基準があること

以上のポイントをみると、サクセッションプランを成功させるには、「社員とのコミュニケーション」が重要であることがわかります。

本書の中には、こう書かれています。

「サクセッション・プランニングの取り組みについて、社員といかにコミュニケーションするかによって、取り組みが前進するか、それとも組織内の社員たちに手を抜いて対応されてしまうかが決まってきます」(P124)

成功するサクセッション・プランには、社員が、将来的に可能性があるキャリアパスや、そのために必要な人材開発の内容に関する理解を深めることができるという大きなメリットがあります。

それが社員に認知されなければ、「一人の天才を選抜するプラン」であると誤解され、参画意欲をそがれてしまう可能性があります。

だからこそ、コミュニケーションが重要となるのです。

本書には、そのコミュニケーションを促進させるための社内文書のサンプルも記載されているので、実践的なヒントが得られると思います。

ただし、本書はアメリカで書かれたものを翻訳した本なので、日本企業での実践の参考にする際には、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」の有無など、日本と欧米のビジネス慣行の違いを考慮する必要はあります。

そのような違いを念頭においても、計画的・組織的に人材開発をすすめるための有益な示唆は得られると思います。

本書でも、最初から「完璧なサクセッションプラン」の構築を目指す必要はないということを基本原則の一つとして挙げ、まず部分的にでも始めてみることを推奨しています。

・基本原則13
「サクセッションプランニングは、すべてか無かというコンセプトではない」
(P122)

最後に、サクセッションプランにおいても、お手本とすべき企業GEのCEOであるジェフ・イメルトの言葉を紹介しておきます。

「企業の寿命を左右するのは二つの要因だ。一つは業績。そしてもう一つは自己再生能力である」

まさに、サクセッションプランは、企業にとって「自己再生能力」そのものであると言えるでしょう。