ソーシャル・キャリアコンサルタント 五十嵐郁一 Official Blog

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官僚的で硬直化した組織から、社員の力を解放させるマニュアル

これは、「なぜ従業員たちにアイディアを実行させてやらないのか?」という質問に対する、誰でも知っているグローバル企業の幹部の答えです。


どの企業だと思いますか?


「時間がないのです。マネジャーは2年前の半分の人数しかいないのに、やらなければならない仕事の量は変わらないのですから。我々は以前と同じ量の官僚的な質問に答え、書類に記入し、同じ回数だけの会議に出席しなければならないのです。しかも何かのアイディアを試そうとしても、あまりにも多くの承認が必要で、始める前に資金繰りが手遅れになってしまう状態です。どうしてそんな面倒なことをわざわざしなきゃならないのですか?」


答えは、GEです。 ただし、1988年の話です。


1981年から、カリスマ的経営者としてあまりにも有名なジャック・ウェルチが、GEの変革を進めグローバルで「強い会社」に成長させました。

そして、現在のCEOであるジェフ・イメルトも、さらに成長を加速させています。
今日の新聞でも、GEとシーメンス・三菱連合が競っていた、フランスの重電大手アルストムのエネルギー部門買収で、仏政府はGE案を支持すると表明したことが報道されていました。


しかし上のような言葉をみると、現在のGEのイメージとのギャップを感じます。


ウェルチのような強いリーダーであっても、肥大化した企業の体質を改革するのは困難であったことがよくわかります。

つまり、GEでさえも、時代に合わない官僚的な体質で危機に陥っていたということです。


日本企業で働く人々の中にも、先に書いたような言葉に似たことを感じている人は多いかもしれません。

そして、そのような体質を変革して、より良い組織にしたいと願っている人も多い事でしょう。


では、どうすれば、自分の所属する組織を変える事ができるのでしょうか?


まずは、GEの実践事例について書かれた本から企業変革を成功させるための考え方や手法を学んで、まずは小さく出来る事から自分で実践していけば良いと思います。


もちろん、他の企業の変革のケースも数多く出ています。


しかし、GEのケースに関する本は、客観的・理論的に書かれたものが多いので、自分で実践することを目的として活用するには最適だと思います。


GEはジャック・ウェルチ専制的リーダーシップのイメージが強いですが、実際は、社外から精選された複数の大学教授やコンサルタントが専門家としてのチームを組んで、改革のためのプログラムを設計し、推進してきました。


そして、その専門家のチームのメンバーが、GEで実践した事を本に書いているので、特殊な事例としてではなく再現可能な汎用性のある示唆を得る事ができます。


以下、そのような本を3冊挙げておきます。


■「GE式ワークアウト」

デーブ・ウルリヒ/スティーブ・カー/ロン・アシュケナス (著)

高橋 透/伊藤 武志 (翻訳)



GEの経営手法で、最も有名なのは「ワークアウト」でしょう。


以下、本書の内容の一部を引用します。


「この『ワークアウト』がなければGEも他の会社と全く同じだっただろう」


では、その「ワークアウト」の本質とは何なのでしょうか?


「ワークアウトはとても単純な考え方である。それは、ある仕事に最も近い者が、その仕事を最も良く知っているという前提に立つ。そして職能や職位に関係なく、現場の人間にアイディアを求め、しかもその場でそれを実行に移す。そうすることで、とめどもない活力や創造力、生産力が組織全体に解き放たれる。」


最近、「創造的なアイディアを出すためのワークショップ」や、「経営トップと従業員の対話のミーティング」のようなものが流行っているようです。


しかし、「ワークアウト」は、そのような単なる場作りではありません。


「ワークアウトは、ワークショップとタウンミーティングをその中心としているとはいえ、一時的なイベントではない。具体的な意思決定を実現するためのさまざまな活動を統合した一種のシステムである。」


「ワークアウトは研修所やホテルなどで行われる一度限りのイベントではなく、毎日の仕事の一環として行われるべきである。それが『GE式ワークアウト』である。」


つまり、ワークアウトとはイベントではなく、経営システムとして統合された「仕組み」なのです。

ワークアウトの実践とは、「場作り」ではなく「仕組み作り」と言えるでしょう。

そして、そのための具体的な方法について、まさにマニュアルと言えるようなレベルで書かれた本が「GE式ワークアウト」なのです。


■「ジャック・ウェルチのGE革命―世界最強企業への選択」

ノエル・M・ティシー/ストラトフォード・シャーマン (著)

小林 規一/小林 陽太郎 (翻訳)



上に書いたように、ワークアウトはGEの改革の中でかなり重要なシステムであり、様々な企業や組織で導入されてもいます。

しかし、ワークアウトだけで改革が進む訳ではありません。

本書は、主にジャック・ウェルチが会長に就任してから1980年代に実行された、GEの改革の全体像を詳細にかなり生々しく記述した本です。

GE改革の中核的な機関として、年間1万人のマネジャーにトレーニングを実施していた、有名な「クロトンビル経営開発研究所」のトップをつとめた、ノエル・M・ティシーが書いているので、GEの改革の本質から様々な具体的な施策まで全体的に理解する事ができます。


では、その改革の全体像を一言で言うとどうなるのでしょうか?


本書に書かれているこの言葉が象徴的だと思います。


「マネジメントは重要なものだが、しかし、競争に勝つためにはリーダーシップが必要になる。GEは、従業員の一人一人にリーダーシップを求めるような組織をつくり出した」


つまり、GEの改革とは、「雇用者」と「従業員」とに分断されてしまうようなピラミッド型の官僚的な組織から、すべての社員が、自らの仕事のリーダーとして能力を発揮出来る組織へ変化させるものであったのです。


「ワークアウト」は、そのための仕組みの一つでしたが、その他の具体的な施策やコンセプトなども、本書には書かれています。

付録として、「日本企業変革のためのハンドブック」という章もあります。

約20年前に書かれた本ではありますが、本質的な部分で、今でも活きる示唆が得られると思います。


■「ジェフ・イメルトーGEの変わりつづける経営」

デビッド・マギー (著)

関 美和 (翻訳)



GEと聞けば、殆どの人が、反射的にジャック・ウェルチの名前を思い浮かべるのではないでしょうか。


しかし、本当にGEの強さを象徴しているのは、2001年に45歳でウェルチからCEOを引き継いだ、ジェフ・イメルトだと思います。


ウェルチのようなカリスマ経営者が引退した後に、迷走してしまう企業も多いですが、GEはジェフ・イメルトが経営を引き継いでからも、9・11エンロン事件等の困難を乗り越えながら売上げは60%以上拡大し、利益は倍増しています。


まさにその事実が、GEの経営のリーダーを育成・選抜する仕組みが的確だからこそ、ウェルチから続くイメルトのような優秀なCEOを輩出し、業績を拡大し続ける事ができるということを証明していると言えるでしょう。


では、ジェフ・イメルトはどのようなリーダーで、どのように困難を乗り越えGEを成長させ続けているのでしょうか?


本書は、先に挙げた2冊とは違い、外部のジャーナリストによって書かれた本ではありますが、上の問いの答えとなるストーリーを描いています。


ジェフ・イメルトは特にリーダーの育成に注力しています。


不況の真っ只中であった2008年に、イメルトはこう言っていたそうです。


「それでも、社員教育には景気が良いときと同じだけの投資をしている。他のどの企業も、リーダーシップ教育に費やす費用を削減している。だが、私自身は仕事の三割の時間を人材に使い、GEにとって非常に貴重な資源である人材に、今後も投資し続けていく」


そして、以下の5つを、成長を推進する「グロースリーダー」の資質として明確にし、それを伸ばすための育成プログラムを推進しています。


・市場の基準で成功を客観的に定義する「外部志向」がある


・戦略を行動に落とし込み、意思決定し、優先順位を伝える「明確でわかりやすい思考」の持ち主である


・「想像力」と勇気があり、人材とアイディアの両方でリスクが取れる


・全員参加と人とのつながりによってチームを活性化し、忠誠心と責任感を築く「包容力」がある


・職種や領域の専門性を育て、高度な「専門性」を自信のよりどころにして、変革を起こすことができる


これらの資質について、ジェフ・イメルト自身も、自らのレベルに対する客観的な評価を受け、日々改善に努めているそうです。


今後も、GEは、多くの組織にとって学ぶべき対象でありつづけるように思います。