ソーシャル・キャリアコンサルタント 五十嵐郁一 Official Blog

社会起業家×キャリアコンサルタント=ソーシャル・キャリアコンサルタント → より幸せな社会の実現を目指して

U理論の最大の難所を乗り越えるためのヒント


先日の記事の続きになりますが、「U理論」の理解においても実践においても、最大の難所となるのは「U曲線の底」ではないかと思います。


「U曲線の底」について、オットー・シャーマー博士は著書「U理論」の中で、こう書いています。


「U曲線の底では、非常に重要な関門が用意されている。この関門を通ることは針の穴をくぐるようなものだ。この関門を通ることが出来ないと、それまでの変革の努力は表面的なものにとどまってしまう」(U理論:P76)


いかにも「難所」っぽい感じがしますよね・・・。


では、その関門を抜けた先はどのようになっているのでしょうか?


「習慣的な『自己』とより高い次元の『自己』が交流するとき、未来の最も高次の可能性と深遠だが確かなつながりを持つことができ、過去の体験では解決できない問題を解決するヒントと道筋を得る事が出来る。つまり、新しいリーダーシップ・テクノロジーでもっとも重要なのは、あなた自身のより高い次元の『自己』なのである」(U理論:P76)


このような文章を読むと、ごく普通の人にとっては、何となく難しい感じがしますし、何か遠い世界のような感じがするかも知れません。


でも、実際は、それほど難しい理屈を意識すること無く、自然と「U曲線の底」を通っている人々が、一般の企業人の中にも数多くいらっしゃるように思います。


そのような方の事例を見ると、上に引用したオットー・シャーマー博士の言葉も理解しやすくなるのではないかと思います。


そのわかりやすい事例の一つとなる本が、冒頭に画像リンクを掲載した、「ホンダ イノベーションの神髄」です。


著者は、日本で初めてエアバックの開発・量産・市販に成功した小林三郎氏です。
小林氏が約16年かけて開発したエアバッグの構造・機構は、他社も含めその後の量産型エアバッグの基本となりました。


小林氏はホンダの元経営企画部長ですが、責任者としてエアバックの開発に取り組んでいた時は、役員でも部長でもなく一介の技術者でした。


その小林氏が、当時の上司である役員の方にエアバック開発の中止を指示されたとき、このような言葉で説得し、継続の許可を得ました。


「しかし、感情を抑えながら、ここでも『世界で毎年10万人、毎日300人に近くの近くの人が交通事故でなくなっています。エアバックがあれば、この人たちの多くの命を救えます。我々がやらなければいけません』という話しを10回くらい繰り返した」(U理論:P222)


この小林氏の言葉を、先に引用したオットー・シャーマー博士の文章にあてはめると以下のようになると思います。


・「習慣的な自己」→会社員として上司の指示に従って仕事をする
・「より高い次元の自己」→交通事故死を減らすために貢献する
・「未来の最も高次の可能性」→エアバックが世界中に普及し多くの命が救われる
・「過去の体験では解決できない問題を解決するヒントと道筋」→イノベーション


U理論の中には「出現する未来」という表現がありますが、それに相当することを小林氏はこう書いています。


「1987年12月10日、事故が起きてエアバックが初めて日本で作動し、乗員を保護したと販売店から連絡を受けた。すぐに時間をつくって会いに行った相手は、群馬県の地元企業の社長さんで、『エアバックで命拾いした。ありがとう。ありがとう』と何度も感謝の言葉を受けた」(P17)


その後のエアバックの普及については、説明するまでもないでしょう。


また、オットー・シャーマー博士は、以下のように書いています。


「人には二つの異なる学習があるということだ。それは『過去』の経験からの学習と、出現する『未来』からの学習だ」(U理論:P39)


では、「出現する未来からの学習」とはどのようなものなのでしょうか?


小林氏は、エアバックの量産と商品化の許可を得る経営会議の様子をこう書いています。
会議メンバーの殆どが、暴発や不発のリスクを恐れて、反対している状況でした。


「そのとき、当時ホンダの社長だった久米是志さんが『小林さん、エアバックを量産するとあなたがやってきた高信頼性技術はホンダに残りますか』と聞いてきた。私はとにかく必死で、『残ります、絶対残ります。エアバックは故障率100万分の1の技術です。(中略)高信頼性技術がホンダに確実に根付きます』と答えた。
それを聞くと、久米さんは会議メンバーをぐるりと見渡して言った。『分かった。エアバックの高信頼性技術は、お客様の価値である品質の向上につながる。よし、やろう。皆さんよろしいですね』。この一声で、エアバックの量産が決まったのだ」
(P248)


ここで言う、「高信頼性技術が根付く」が「出現する未来からの学習」であると言えるでしょう。
なぜなら、「高信頼性技術」は「エアバックが量産されている未来」に踏み出さなければ得られないものだからです。
そもそもエアバックは量産されたことが無いので、そのための技術は「過去」から学べるものではなく、未来に向けて試行錯誤しながら学んで行かなければならないのです。


もちろん、小林氏は、U理論を知っていた訳ではありませんが、それを自然に実践していたと言えるでしょう。
また、「ホンダ イノベーションの神髄」もU理論の解説書ではありません。


しかし、今まで書いてきたように実例に当てはめてみると、U理論もより理解しやすくなると思います。


「U曲線の底」には、以下のような問いがあります。


「私とは何者か?私の『成すこと』は何か?」(U理論:P75)


U理論の最大の難所とは、この問いに対して明確に答えるということでしょう。