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企業における研修開発のグローバルスタンダードを指し示すガイドブック

  

以前、このブログの「これから研修の内製化を進めるために知っておくべきこと」という記事にも書きましたが、アメリカでは、日本で言う「研修の内製化」に相当する言葉はなく、英語にするのが難しいそうです。
もちろん、外部の専門会社に研修を依頼する事もあります。
しかし、一般的な日本企業よりも、社内のスタッフが人材育成プログラムの開発に関与するウェイトは大きいようです。

また、グローバル経営が進んでいる優良企業においては、人材開発部門が社内で研修を開発するための高度な知識・スキルを保有していることは当然のことになっているようです。

 

では、グローバルな研修開発のスタンダードとはどのようなものなのでしょうか?

 

この問いに対して実践的に答えてくれる本が、日本でも今年出版されました。

 

冒頭に画像リンクを掲載している以下の2冊です。

 

「研修プログラム開発の基本〜トレーニングのデザインからデリバリーまで」
「研修効果測定の基本〜エバリュエーションの詳細マニュアル」

 

2冊とも、米国に本拠をおく世界最大の人材開発の機関であるASTD(American Society for Training and Development)が刊行している、ASTD Training Basicsシリーズの中から翻訳したものです。

 

プログラムの開発と効果測定について、どちらか関心の高い方だけを読んでも良いですが、2冊一緒に読んだ方が、より体系的な理解が深まると思います。

なぜなら、効果測定については、研修を企画する際の一番始めの段階から詳細に考えておかなければならないからです。

 

日本でも、インストラクショナルデザインやワークショップデザインの理論に関するものなど、企業で研修を企画するために役立つ本はあり、このブログでも紹介しています。

 

しかし、それぞれ良く言えば特色があるのですが、学術的であったり重点を置く範囲に偏りがあるような傾向があるようにも見受けられます。

 

本書では、ASTDが刊行している事もあり、先行研究や企業における事例の蓄積から得られた実践のための知見がバランスよくまとめられています。

 

インストラクショナルデザインのプロセスごとに、理論だけではなく、ワークシートのサンプルなど、企業で展開する上での実践的なノウハウが紹介されています。

 

例えば、「研修プログラム開発の基本」では、自ら開発した研修のコンテンツに対する関係者からのレビューコメントに返答する際のポイントについても解説していますが、その中に以下のような記述があります。

 

「コメントに正式に返答する前に、1営業日待つ。少なくとも、コメントのせいで頭に血が上ってしまったとしても、1日余分な日があれば落ち着く機会となる。また、とるべき一連の行動について、作戦を練る時間を得られるかもしれない」(P222)

 

良いプログラムをデザインするには、客観的なレビューを受けることは必須ですし、ネガティブなコメントもまずは受容することが大切です。
しかし、そう分かってはいても、ネガティブなコメントを受けて感情が揺らいでしまうのは、人間ならだれしもあることでしょう。

 

本書が人材開発の実務家にとって良きガイドブックとなることは、上記のような機微な部分についての実践的なアドバイスからも伺えると思います。

 

ただし、ASTD Training Basicsシリーズである本書で使われている言葉や考え方は、欧米のものが土台になっているので、日本の旧来の企業文化の文脈とは多少異なる部分もあります。
中には、教材開発に関する部分など、実践的であるがゆえに欧文表現のみでしか適用できないような記述も見受けられます。

 

しかし、最近では、韓国やインドなどアジアのグローバル企業においても、ASTDが提唱するような考え方に基づいて、人材開発を進める傾向があります。

 

日本の企業文化における人材育成の考え方も良いものですし、そのなかで培った個人の経験も貴重だと思います。

 

それを踏まえた上で、グローバル化が加速する環境においては、本書に書かれているような、インストラクショナルデザインの企業実践のスタンダードを知ることも大切ではないでしょうか。

 

これから研修を自分で開発しようと考えている方や、既に経験を積んでいるが基本を見直したいと考えている方は、本書から有益な学びを得られると思います。

 

なお、ASTDでは、いわゆる「研修」を、あくまでもビジネスゴールを達成するための手段の中のごく一部であると考えています。

そして、ビジネスゴールを達成するための技法をHPI(Human Performance Improvement)と呼び、研修開発の上位に位置づけています。

そのため、このブログの以前の記事で紹介した本「HPIの基本」と併せて読むと、さらに理解が深まると思います。

以下のURLを参照してください。

 

・人材開発部門がチェンジエージェントへの変化を加速させるためには?
http://www.yuichi-igarashi.com/hr/2013/09/post-2d4d.html