企業のHR、特に人材開発部門のスタッフは、「デザイナー」と言い換えることも出来ると思います。
インストラクショナルデザインのプロセス全体を推進する立場としても、「デザイナー」であると言えます。
そして、人材開発部門のスタッフの仕事の本質は、社員の成長のプロセスをデザインすることでもあります。
人材開発部門のスタッフが、そのような「学びのデザイナー」であるとすれば、他の分野のデザイナーの仕事からヒントをもらえることも多いと思います。
iPhone、iPadなど、アップルのデザインを取り仕切っている、インダストリアルデザイン担当上級副社長のジョナサン・アイヴ氏のメッセージからも、とてもシンプルで重要な教訓を得られるので、ご紹介しておきたいと思います。
以下のURLのインタビュー記事を参照してください。
アップルのデザインの進め方、責任者ジョナサン・アイヴが語る
http://www.gizmodo.jp/2012/03/post_10103.html
以下、私が特に共感した部分を引用しておきます。
Q:新製品を作り始める時のゴールは何ですか?
A:僕らのゴールはとてもシンプルです。それは、より良い製品をデザインし、作ることです。より良いものを作れないなら、それをしません。
Q:競合他社にそれがなかなかできないのは、なぜでしょう?
A:たしかに、できるところは多くありません。他社の大部分は、何か「他と違う」ことをしようとしていたり、新しいと思わせたりしたがっていますが、完全にゴールを間違えていると思います。
(中略)
普通の会社の上層部は、価格とかスケジュール、違って見えるための奇抜なマーケティングゴールなんかを気にしますが、そんなことは重要ではありません。そういうのは、製品のユーザーに対する認識の乏しい、会社都合のゴールです。
ジョナサン・アイヴ氏は、シンプルに、ユーザーのことだけを考えて、「より良いもの」を作ることがゴールであると言っていますが、それがとても大切な考え方だと思います。
「新しいこと」や「他社と違う」ことは、「より良いもの」とは本質的に異なるものです。
ユーザーに対して忠実に「より良いもの」を追求した結果として、新しくなったり、他社との違いが出てくる場合があるだけなのです。
むしろ、「新しくしよう」とか「他と違うものにしよう」という想いが余計な偏見となり、ユーザーにとっての「より良いもの」を歪めてしまう可能性があります。
「より良いもの」を追求した結果、斬新さがなく保守的で目立たないデザインになるかも知れません。
しかし、そのデザインがユーザーにとって価値があるものなら、きっとそれが正解なのでしょう。
人材開発においても、研修やワークショプに関する流行の手法やツールが目新しく見えて、それを取り入れれば何か変化が起きるように思える場合もあります。
しかし、それはあくまでも、「手段」であって「目的」ではありません。
人材開発においても、本質から逸れたものをそぎ落として、社員の成長と組織の業績の向上に対して忠実な「より良いもの」だけを徹底的に考え抜いて、原点の目的からぶれないように、シンプルな学びのプロセスをデザインしていくことが大切でしょう。
ジョナサン・アイヴ氏のメッセージは、改めてそう気付かせてくれるものだと思います。