何かと鬱陶しい梅雨時ですが、日本の多くの会社では、新入社員研修が終って職場に配属され実務で苦労し始めたり、4月にリーダー・マネジャーに昇格した方が部下との接し方に悩んだりする時期でもあるようです。
では、部下や後輩、チームのメンバーが、落ち込まずに前向きに成長するためにはどうすればよいのか?
そのような悩みを抱える方も多いと思います。
そこでつい陥りがちなのは、指導する相手の伸び悩みや失敗の原因を、個人の資質ややる気のせいにしてしまうことです。
行動分析学という学問では、それを「個人攻撃の罠」と呼びます。
スポーツの世界では、相変わらず体罰が問題になっていますが、以前、元プロ野球選手の桑田真澄氏が、体罰について朝日新聞の取材に応えてこのように言っていました。
「指導者が怠けている証拠でもあります。暴力で脅して子どもを思い通りに動かそうとするのは、最も安易な方法。昔はそれが正しいと思われていました」
桑田氏は、体罰の根には「個人攻撃の罠」があると言っているように思います。
そして、桑田氏は続けてこのように言っています。
「今はコミュニケーションを大事にした新たな指導法が研究され、多くの本で紹介もされています。子どもが10人いれば、10通りの指導法があっていい。」
上の桑田氏の言葉から学ぶべきことは、リーダー・マネジャーが指導に悩んだ時には、「個人攻撃の罠」に陥らずに自らの指導法を客観的に見直すべきだということでしょう。
そのために役に立つ3冊の本をご紹介します。
このブログでは、ちょっと厚めの専門書を紹介することが多いですが、今回はとても易しく読みやすい本ばかりを選びました。
◆ 叱らなくても部下の心をつかむ方法
本間正人(著)

「厳しく叱るのが本人のため」
「いや、ほめた方が人は伸びる」
人によって、どちらかに偏ったスタイルをとる場合がよくありがちですが、この本では、「叱る」でも「ほめる」でもない、「ニュートラル・フィードバック」という手法を学ぶ事が出来ます。
「ニュートラル・フィードバック」について、著者の本間正人氏は以下のように説明しています。
「相手の行動・言動について、きめ細やかに観察し、その事実に基づいて、価値判断を入れずに、淡々と伝えるコミュニケーションの方法です」
指導する際には、自分の思い込みや偏見、感情などがつい入り込んでしまう場合があります。
「ニュートラル・フィードバック」はそれを排することによって、相手が追い込まれずに指導を受け入れやすくなり、自ら考える力も伸ばしていきます。
様々なケース即した、フィードバックの具体的なフレーズや「ツボ」が書かれているので、自分の状況に応用する参考になるでしょう。
◆行動科学を使ってできる人が育つ!教える技術
石田 淳 (著)

問題解決のカギは「心」ではなく「行動」にある
上の言葉がこの本の重要なコンセプトです。
そして、教えるということを、「相手から望ましい行動を引き出す行為である」と定義付けています。
この本では、望ましい行動を引き出すための理論である「行動分析学」を土台として、様々な教えるための手法をわかりやすく説明しています。
何かができない理由を、相手の「やる気」や「才能」のせいにするのではなく、誤った「行動」の原因を把握し科学的な方法で解決を図ることの大切さを教えてくれる本です。
年上の部下や、アルバイト・派遣社員、外国人等、相手のタイプ別の接し方についても書かれています。
◆しつもん仕事術
松田充弘 (著)

「望ましい行動を引き出す」ための有効な方法の一つが「質問」です。
そのことは頭では理解できていても、実際の場面で具体的にどのような質問を投げかければ良いのかがわからないという人も多いようです。
この本は、成長の気付きが得られる「良い質問」をするための、基本的な心構えから具体例・ツールなど役立つ情報が、シンプルにまとめられています。
例えば、この本の表紙の裏には、この質問が掲げられています。
「まず、あなたに『しつもん』です。本書を読んだ後、どんな状態になっていたら最高だと思いますか?」
本の最初にこう書かれていると、やっぱり本を読む目的・目標を改めて考えるようになります。
この質問だけでも、仕事の場面で質問を使う際の参考になるでしょう。
以上、部下や後輩の指導に関する本は数多くありますが、スラスラと読めてわかりやすく要点がシンプルにまとまれていて、理論的な根拠もしっかりしたものを3冊選んでみました。
桑田氏が言っているように、コミュニケーションや指導法については、科学的研究が進んでいます。
それを学んだり自分のやり方を見直したりせずに、できない理由を相手のせいにしてしまうのは、やはり「指導者が怠けている証拠」なのかもしれません。
今では企業の管理職のほとんどが、プレイングマネジャーとして、自らも成果をあげながら他の人を育成することを期待されています。
それはとても肩の荷が重い役割ではありますが、実は見返りも大きいのではないでしょうか。
最後に、前出の本間正人氏の言葉を紹介しておきます。
「部下に対して、さまざまなコミュニケーションスキルを駆使しながら、部下が育つのを側面的にサポートするその過程で、上司自身も成長していく。これはとても大切なことです。」