ソーシャル・キャリアコンサルタント 五十嵐郁一 Official Blog

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イノベーションにチャレンジするチーム作りのヒント〜「イノベーションの達人 発想する会社をつくる10の人材」


「あなたがチームの一員であろうとグループのリーダーであろうとエグゼクティブであろうと、真のイノベーションは人を通じてしか辿り着けない。それはあなた一人でできることではないのである」


これは、Apple社など世界中の一流企業をクライアントに持つデザインコンサルティング会社IDEOゼネラルマネジャーであるトム・ケリー氏が、著書「イノベーションの達人〜発想する会社をつくる10の人材」で書いている言葉です。


最近では、イノベーションを促進させる技法としての「デザイン思考」がかなり広まってきていますが、もともとはIDEO社が以前から提唱していたものです。


企業の人事部門においても、イノベーターの育成を課題として掲げ、イノベーションを促進する「人材」をどう育てていくか考えているところが増えているようです。


しかし、IDEO社では、イノベーションを起こすのは、「人材」ではなく「チーム」であるという考え方をとっています。
良く引き合いに出されるスティーブ・ジョブスのような、少数のカリスマ的な人材の力ではありません。


では、イノベーションを成功に導くのはどのようなチームなのでしょうか?


その問いに対する答えが書かれているのが、冒頭にあげた本、「イノベーションの達人〜発想する会社をつくる10の人材」(Tom Kelley 著, Jonathan Littman 著, 鈴木 主税 訳)です。


具体的には、以下に挙げる多様な10のキャラクターの集まりですが、そのキャラクターは「情報収集」「土台づくり」「実現」3つの役割に分けられています。


◆情報収集の役割


チームの目が内側に寄りすぎないように、常に新しい情報を集めてくる役割で、以下の3つのキャラクターが担うものです。


1.人類学者→観察する人


人々の行動を観察して、提供される商品やサービスと人々との本質的な関係性を見いだして、組織に新たな情報や発見をもたらすキャラクターです。
最近では、「エスノグラフィー」という言葉も一般化してきましたが、これはまさに「人類学者」の仕事と言えるでしょう。


2.実験者→プロトタイプ(試作品)を作成し改善点を見つける人


常に新しいアイデアのを、プロトタイプとして目に見えるカタチにして、試行錯誤を繰り返しながら成功に導くキャラクターです。


3.花粉の運び手→異なる分野の要素を導入する人


異なる業界、異なる分野を探り、そこで発見したことを、自分達の分野に応用できるように変換するキャラクターです。


◆土台をつくる役割


良いアイディアを具現化するために、予算や資源の獲得に向けた駆け引き等、「政治」的な問題をクリアする役割で、以下の3つのキャラクターが担うものです。


4.ハードル選手→障害物を乗り越える人


イノベーションの実現に至るプロセスに存在する、組織上の問題等の様々な障害を、柔軟に飛び越えていくキャラクターです。


5.コラボレーター→横断的な解決策を生み出す人


チームの中心から指揮を執って、組織内の壁を取り払って、多様な人々の専門性を束ね、分野横断的なソリューションを生み出すキャラクターです。


6.監督→人材を集め、調整する人


才能あるキャスト、クルーを集めてくるだけでなく、その人たちのクリエイティブな才能を開花させる手助けをするキャラクターです。


◆実現する役割


情報収集をする役割から得られた発見を用い、土台をつくる役割から委託された権限を利用して、最終的にイノベーションを実現する役割で、以下の4つのキャラクターが担うものです。


7.経験デザイナー→説得力のある顧客体験を提供する人


広い意味での考案者や創造者全般を指し、製品やサービス、イベント等様々な方法を通して素晴らしい顧客経験をデザインするキャラクターです。


8.舞台装置家→最高の環境を整える人


イノベーション・チームが最高の仕事ができるように、オフィス環境や作業空間を創造力を最大限に引き出す「場」に変換するキャラクターです。


9.介護人→理想的なサービスを提供する人


つねに顧客が本当に求めているもの予測して、単なるサービスを超えたケアとして提供できるようにするキャラクターです。


10.語り部→ブランドを培う人


新しい試みや努力、根本的な価値、イノベーションの成果などを、説得力のあるストーリーに仕立てて、チームの士気を高めたり外部からの評判を高めるキャラクターです。


以上が10のキャラクターですが、決して硬直的に一人にひとつのキャラクターを割り当てるという訳ではありません。

同書では、一人のメンバーが、同時に複数のキャラクターを担うこともあり、臨機応変に状況に応じてキャラクターを変えることもあるとしています。

様々な企業の実例を見ても、現実はその通りでしょう。


例えば、有名なトヨタかんばん方式は、製造業における大きなイノベーションでした。


かんばん方式は、生みの親の大野耐一氏が、アメリカのスーパーマーケットの仕組みからヒントを得たものですが、それはまさに「花粉の運び手」の仕事です。

しかし、大野氏はかんばん方式を具現化するプロセスにおいて「花粉の運び手」に留まらず、「監督」や「語り部」などかなり多くのキャラクターを兼ねていました。


イノベーションにおいて大切なのは、柔軟性や多様性を重視してチームをつくることなのでしょう。


同書の最終章には、こう書かれています。


「しかし、本当に大きな成果が表れるのは、いくつもの役割を集めて混ぜ合わせ、複合的なチームをつくったときだ。イノベーションは究極のチーム・スポーツである。すべての役割に、それぞれの分野で最高の仕事をさせれば、イノベーションを推進する前向きの力が生まれる」