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「戦略人事」の実践的ケーススタディ〜「サムスンの戦略人事―知られざる競争力の真実(李 炳夏 著, 新宅 純二郎 監修)」

 

企業の人事部門は、どうすれば「戦略人事」として持続的成長へのイニシアティブをより強く発揮できる存在になれるのか?

 

このような問題意識を持つ人事担当者の方も多いと思います。

 

冒頭の問いに対する大きな示唆を与えてくれるのが、サムスン電子人事部のケースです。

 

サムスン電子は、良く知られている通り、1997年のアジア通貨危機や2008年のリーマンショックなどの大きな環境変化を乗り越え、業績を伸ばしてきました。
それは、変化に対応するために戦略を転換し、大胆な社内変革を実行した成果です。

 

サムスン電子の人事部は、まさに「戦略人事」として、変革をリードする役割を担い新たな戦略の実現に大きな貢献を果たしました。

 

先日のこのブログの記事で、デイビッド・ウルリッチ教授の理論を紹介しましたが、サムスン電子人事部は、その理論を意識して様々な施策を実行し、変革を成し遂げました。

 

その成果に至るプロセスは、「戦略人事」を目指す他の企業の人事部門にとって有用なケーススタディになると思います。

 

では、サムスン電子人事部は何をしたのでしょうか?

 

それを分析した本が、「サムスンの戦略人事―知られざる競争力の真実(李 炳夏 著, 新宅 純二郎 監修)」です。

 

著者の李炳夏(リ・ビョン)氏は、サムスン電子人事チーム部長やサムスン研究所常務を歴任した方です。
同書は、その著者の経験も踏まえ、東京大学での博士課程学位論文をベースに書かれているので、かなり詳細で説得力の高い内容になっています。

 

サムスングループは、アジア通貨危機を境に、家族的な「共同体主義」からコア人材の能力を重視する「成果主義」へと、経営の根幹となる価値観を大きく変革しました。

 

その変革の実現において、サムソン電子人事部が大きなイニシアティブを発揮できたポイントは、大きく以下の3つになります。

 

1.専門性の確保
2.科学的な方法論の導入
3.変化へのリーダーシップ確保

 

まず、人事部門が、施策を現場や経営者に受け入れてもらうためには、それぞれから信頼されなければなりません。
そして信頼を得るためには、人事部門が「専門家」として認知されることが重要になります。

 

当時、サムスン電子人事部メンバーの間で良く交わされた言葉は、「貴方は他の世界超一流企業の人事担当者と比べて同レベルの専門能力を持っていると思うか」ということであった。
(出典:「サムスンの戦略人事」P189)

 

サムスン電子人事部は、上の問いにイエスと答えられるように、人事の専門性を高めるための様々な教育を大々的に実施しました。

 

例えば、人事担当幹部社員を対象にした「人事専門家育成コース」は、なんと5週間にわたる合宿教育であり、かなり期間が長く密度も濃いものになっています。

 

また、その専門性にも関連して「科学的方法論の導入」も徹底していきました。

 

人事部は当時全社で積極的に導入された「シックスシグマ講座」に人事部員を継続して派遣し、次々と新たな「シックスシグマ課題」に挑戦することにした。
(出典:「サムスンの戦略人事」P192)

 

サムスン電子人事部は、外部の専門家集団を活用して、GEなども導入している「シックスシグマ」という経営管理手法を使って人事考課制度を改革しました。
そのような科学的方法論に基づいて、施策の根拠を数量化することが、社内の利害関係者の納得性を高め、人事部が意図する改革の実現につながりました。

 

さらにサムスン電子人事部は、上記のような専門化・数量化に重ねて、現場のリーダーを通して改革を徹底するために、リーダーシップの強化を推進していきました。

 

その一例が、本社人事部直下の組織として1998年に設立された「リーダーシップ開発センター」で、主に以下の3つのミッションを掲げて、多くの充実した教育プログラムを実施していきました。

 

・全社イシューおよび核心価値(コア・バリュー)の共有
・次世代リーダーの育成
・競争力のある職能専門化の育成

 

サムスン電子人事部は、「リーダーシップ開発センター」が実施する社内教育プログラムを通して、新たな経営方針を徹底していきました。
その結果、経営陣と現場からの人事部に対する評価も高まっていきました。

 

経営陣は会社の直面する経営環境の変化や新たに設置された経営方針の徹底した伝道者として人事部を認めることになり、現場のリーダーたちも自らの精神武装を含め、現場のチャレンジと変化を促す原動力になる新たな知識や発想を人事部に求めることになったのである
(出典:「サムスンの戦略人事」P198)

 

では、上に引用したような評価を数量化するとどの程度になるか?

 

それを検証するために、サムスン電子人事部は、人事担当者と現場のリーダーに対しアンケート調査も実施しました。
調査票は、ウルリッチ教授の4つの役割モデルの質問文40項目をそのまま使いました。
(質問文は「MBAの人材戦略」P67・68を参照)

 

その結果、4つの役割モデルの全項目で、5年間の評価の向上が数値に表れました。

 

サムスン電子人事部はウルリッチ教授の4つの役割モデルを実践し、自ら「戦略人事」への変容を成し遂げたと言えるでしょう。

 

そのプロセスを事例として、私たちが学ぶべきことはとても多いと思います。