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戦略人事の果たすべき役割とは?〜「『戦略人事のビジョン』制度で縛るなストーリーで語れ」(八木洋介・金井壽宏著)


最近、「戦略人事」という言葉が使われる機会が増えてきました。
このブログで、先日レポートを掲載したASTDの研究発表セミナーでは、タイトルのキーワードを「戦略的HR」としましたが、多くの問題意識の高い参加者の皆様にお集まり頂きました。


「戦略人事」という言葉については、様々な解釈があり細かい違いはあると思いますが、慶應義塾大学SFC研究所上席所員の高橋俊介氏は、以下のように言っています。


「『戦略』とは、経営の目線で、どのようにして他社との差別化を図り、優位性をつくるのかという計画のことである。この戦略目線に立って進める人事が『戦略人事』だ。つまりキャッチアップではなく、中長期視点からの差別性、優位性につながる人事である」


やはり、これからの人事部門においては、管理やオペレーションの役割から、経営戦略の実現に向けてリーダーシップを発揮する中核的な役割への移行の加速が、重要視されているのでしょう。


では、その役割とはどのようなものなのでしょうか?


有名なのは、ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した以下の4つの役割です。

1.戦略パートナー (Strategic Partner)
2.管理のエキスパート (Administrative Expert)
3.従業員のチャンピオン (Employee Champion)
4.変革のエージェント (Change Agent)


この概念は、多くの企業に影響を与え独自にカスタマイズされたものも多いですが、それぞれの役割の意味合いは概ね以下のように捉えておけば良いでしょう。


1.戦略パートナー(Strategic Partner)


組織の現状を的確に認識し、経営者のパートナーとして戦略の実現をリードする役割です。


2.管理のエキスパート(Administrative Expert)


労務や給与、採用、教育など、人事の機能の専門家としての役割です。
また、機能を遂行するためのインフラを効率化するリエンジニアリングの推進役としての役割もあります。


3.従業員のチャンピオン(Employee Champion)


「チャンピオン」という言葉は「主唱する人」という意味合いで使われています。
社員の声に耳を傾けて、代弁者として経営者に届け、コミットメントと能力の向上を実現する役割です。


4.変革のエージェント(Change Agent)


文字通り、組織の大きな変革を推進するエンジンとしての役割です。


かなり幅広い役割ですが、ウルリッチも全ての役割を自分達だけで遂行する必要はないと言っています。
必要に応じてラインマネジャーや外部コンサルタントなどと協働しながら、人材や組織のパフォーマンスを最大化することに責任を負って、経営戦略の実現に導くのが「戦略人事」の役割であるといえるでしょう。


では、「戦略人事」として人事に携わるビジネスパーソンにはどのような資質が求められるのでしょうか?


そして、どのように行動すればよいのでしょうか?


そのような問いに対する示唆を与えてくれる本が、「『戦略人事のビジョン』制度で縛るなストーリーで語れ」です。


LIXILグループ執行役副社長の八木洋介氏と、神戸大学大学院経営学研究科教授の金井壽宏氏との共著で、人事のプロフェッショナルの実体験と組織行動学の理論が、わかりやすく統合されています。


八木洋介氏は、LIXILグループの前職では日本GEのシニアHRマネジャーとして人事部門の長を務めていました。
一貫して人事における「戦略性のマネジメント」を実践してきた方なので、グローバル企業における「戦略人事」の良いロールモデルだと思います。


「戦略人事」と言っても、決して机上でデータや難解な理論を弄するような存在ではありません。


八木洋介氏は次のように言っています。


「戦略は、『こうやって勝つ』というふうに話の筋が通っていて、ふつうの人が納得できるストーリーになっていなくてはなりません。そういった戦略をベースに、ふつうの人である社員とのコミュニケーションを図り、そのやる気を最大化し、企業の生産性を向上させること、これが私の考える戦略人事のあり方であり、人事部門が担うべき役割です」


多くの印象的なエピソードが本の中にかかれていますが、八木氏は積極的に現場に介入し、人と深く関わる行動をとっていました。


そして、戦略人事のプロフェッショナルとして必要な資質については、大きく以下の4つを挙げています。(「」内の青文字は『戦略人事のビジョン』から引用)


・情熱があること

「会社を『強くて、良い会社』にしていこうという熱い気持ち、ほかの人たちに任せるのではなく、自分がぜひともそれをやるのだという責任感と精神力をもたなくてはいけません」

・ビジネスを知っていること

「ビジネスがわからない人事担当者は、いくら人事としての専門性をもっていても、事業部門から現場をわかっていないと見なされ、信頼されません」

・人間のプロであること

「社員のやる気を引き出すためには、人間に対する理解を深めていく必要があります」

「企業の中には、やはり人を扱うプロフェッショナルがいた方がいいでしょうし、会社の中に『人間のプロ』がいることで社員の生産性を高めることができていれば、その会社において人事部門の存在意義はあると思います」


・人の心を揺り動かせること

「やさしさと温かさ、厳しさと強さを併せ持つ人格を形成していくこと、人の心に火をつけたり、人を前向きにさせたりできる言葉をいつでも瞬時に引き出せるような教養や見識を培っていくことも大切です」


私は、以前、八木氏のお話を直接伺ったことがありましたが、とてもエネルギッシュな方で正に上記のような資質を備えていることが感じられました。


一言で言えば、「戦略人事」とは以下のような存在ではないでしょうか。


「経営層と現場の間を縦横無尽に駆け回り、人間のプロとして人と深く関わりながら組織を成長させ、ビジョンの実現に導くエンジン」


では、その力の源になるのはなんでしょうか?


最後に、八木氏の言葉を引用しておきます。


「結局のところ、問われるのはその人事担当者の人間性人間力です」