ビジネスパーソンの人生の中で、最も大きな転機とはなんでしょうか?
それは、初めて、人を指導したり育てたりする立場、いわゆる「リーダー」になった時です。
マネージャー、チームリーダー、チーフ、主任、係長など、その立場の呼び方は組織によって様々ですが、単なるプレーヤーとの違いは共通するものです。
それは、「自分のことだけを考えるのをやめて、他人について考えはじめなければならない」ということです。
例え、自分がリーダーとして率いるメンバーが一人であったとしても、会社から人を預かるようなものですから、やはりしっかり育てる責任が伴います。
そのリーダーとしての役割を果たすためには、プレーヤーの時とは違う知識やスキルが必要になります。
でも、初めてリーダーとなった時に、それを丁寧に教えてもらえる機会は多いでしょうか?
ハーバード・ビジネス・スクールのリンダ・ヒル教授は、次のように言っています。
「マネジャーとしての行動の仕方を身につける事は、控えめに言っても気が遠くなるくらい難しい。それなのにほとんどの組織では、そのための支援がまったくと言っていいほど存在しない」
会社によって違いは大きいと思いますが、新しく正式な役職に昇格した時は、1日〜3日間程度の研修を受けるのが一般的でしょう。
しかし、正式な役職に就かなくても、リーダー的な役割を担うケースはとても多いものです。
そのような場合は、リーダーとして必要な知識やスキルを十分に学べないのがほとんどです。
特に若手社員でリーダーになった方は戸惑うことも多いようです。
そのような新米リーダーの状況は、決して日本の会社に限った事ではなく、先のリンダ・ヒル教授の言葉の通りアメリカでも同じなのです。
「自分のことだけを考えるのをやめて、他人について考えはじめなければならない」
そのような大きな転機を、不安を抱えながら手探りで乗り越えていくのは、かなり大変な試練でしょう。
そこで、初めてリーダーになった方にお勧めの本を五冊紹介しておきます。
リーダーに関する本は本当に沢山出ていますが、とりあえず「これだけ知っておけば何とかやっていける!」という内容のものを五冊に絞り込みました。
書店で平積みになるような流行ものではなく、多くの人に読み継がれている名著を選んでいます。
初めてリーダーになって不安を抱えている方は、ぜひ騙されたと思って読んでみて下さい。
そして、その中に書かれている事を職場で実践してみて下さい。
きっと、書いてある事を実践することの難しさを実感すると思います。
その時はまた、本を開いて、次にどうするか考えながら読んでみて下さい。
その繰り返しが、必ずリーダーとしての実力を高めていきます。
◆1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!
K.ブランチャード 、S.ジョンソン (著)

管理している部下の顔を一人一人、一日の
ほんのわずかな時間でいいからチェックしよう。
そして、部下こそもっとも大切な財産であることを、肝に銘じよう。
こんな言葉から始まる、すぐれたマネジャーを目指す青年が、人を育てるための基本的な原則を学んでいく物語です。
1分間目標設定、1分間称賛法、1分間叱責法など、行動科学理論に基づいたシンプルで実践的な方法を学ぶ事が出来ます。
◆1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法
K.ブランチャード (著)

上に紹介した、「1分間マネジャー」と合わせて読むとより理解しやすいです。
どのように人を育成するかについて、次のように意見が分かれる事が良くあります。
「やっぱり、細かく口を出して指導した方が良い」
「いや、あまり細かく口出しせず、任せて自分で考えさせた方が良い」
どちらが良いかは育成するメンバーの意欲や習熟度に応じて変わるという「状況対応型リーダーシップ」理論を、物語形式でとても簡単に説明してくれる本です。
◆人を動かす 新装版
デール.カーネギー (著)

とても有名な古典的名著ですが、初めてリーダーになった時こそ改めて読み返すべきでしょう。
タイトル通り、リーダーは人を動かす存在であり、その仕事はレベルが上がれば上がる程、対人関係への対処の割合が多くなるからです。
時々目次を眺めるだけでも、改めて自分がまだまだ出来ていない事を気付かされたりします。
例えば、「人を変える9原則」。
・まずほめる
・遠まわしに注意を与える
・自分のあやまちを話す
・命令をしない
・顔をつぶさない
・わずかなことでもほめる
・期待をかける
・激励する
・喜んで協力させる
ちなみに、Google日本法人名誉会長の村上憲郎さんも、この本の目次を読むのを毎朝の習慣にしていたそうです。
◆プロカウンセラーの聞く技術
東山 紘久 (著)

リーダーとして最も大切なのは、「メンバーから相談されやすい雰囲気を作る」ことです。
そのためには、「聞く技術」を磨く必要があります。
しかし、人の話をしっかりと聞くというのは、簡単そうでなかなか難しいものです。
例えば、相手が話しやすくするには、どんなことを心がければ良いのでしょうか?
本書には、こう書かれています。
「どれほど深刻な話でも聞き手が余裕をもち、飾らず、オープンで、ユーモアのセンスに富んでいますと、話し手も心の自由度が広がり、心から話ができるようになるのです」
やさしい言葉でわかりやすく書かれていますが、カウンセリング理論に根ざした正しい知識を得る事ができる本です。
◆コーチング・マネジメント―人と組織のハイパフォーマンスをつくる
伊藤 守 (著)

コーチングはリーダーとして身につけるべき必須スキルの一つですが、実践を通してしか身に付かないものです。
多くの本が出ていますが、知識としては、この本一冊を読んでおけば十分です。
あとは、書いてある事を失敗を恐れず繰り返し実践していけば良いでしょう。
以上、私の独断と偏見かもしれませんが、初めてリーダーとしての役割を担う方にとっては、「ベスト5」だと思います。
私自身、ここで紹介した本に書いてある事を、本当に高いレベルで実践できるようになるのは簡単ではなく、一生の仕事なのだと思う時もあります。
リーダーの仕事は、「自分を育てる」ことを通して、人を育てることなのかも知れません。
そのために、本を読み実践して、また本を読みながら自らを振り返る。
そのプロセスを愚直に続けていく事が大切なのでしょう。