ソーシャル・キャリアコンサルタント 五十嵐郁一 Official Blog

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職場によみがえるギリシャ神話


「レディと花売り娘との本当の意味での違いは、彼女がどう振る舞うかではなく、どう扱われるかです」


これは、イギリスの劇作家ジョージ・バーナード・ショーの戯曲「ピグマリオン」の中の台詞です。ちなみに、「ピグマリオン」という言葉は、ギリシャ神話が由来になっています。(神話の内容は文字リンク先を参照して下さい)


この台詞は、少し言葉を変えれば、そのまま職場にもあてはまるのではないかと思います。


「高業績社員と低業績社員の本当の意味での違いは、社員がどう振る舞うかではなく、マネジャーにどう扱われるかです」


つまり、マネジャーが期待をかけて社員に接するのか、そうでないかが、業績に大きな影響を与えるということです。


先日の記事で、スティーブ・ジョブスが社員に大きな期待をかけることで革新的な商品やサービスを生み出す話をしましたが、それはカリスマの特別な事例ではありません。


元ハーバード・ビジネススクール教授のリビングストンは、マネジャーの期待と業績の関係を様々な事例から研究し、「ピグマリオン・マネジメント」という論文にまとめています。
この論文は、「【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部・編訳)に収録されています。

以下に、リビングストンの結論を引用します。


マネジャーが部下に何を期待し、どう扱うかによって、部下の業績と将来の昇進がほとんど決まってしまう。

優れたマネジャーの特徴とは、「高い業績を達成できる」という期待感を部下に抱かせる能力のことである。

無能なマネジャーは、部下にこのような期待感を与えることができず、その結果、部下の生産性も上昇しない。

部下は部下で、自分に期待されていることしかやらない傾向が強い。


では、「期待」は大きければ大きい程良いのでしょうか?

リビングストンは、こう述べています。


「マネジャーの期待が業績の向上となって表れるには、まずその期待に現実性があるという点をクリアしなければならない」


「部下が上司の期待は現実的で、実現可能なものだと考えないことには、高い生産性の目標を達成させるインセンティブにはなりえない」


つまり、マネジャーが実現可能な範囲で最大限の期待をかけることと、部下がその期待に応えられることを確信することが重要なのです。


では、「実現可能な範囲で最大限」とはどの程度なのでしょうか?


ハーバード大学のデビット・C・マクレランドとミシガン大学のジョン・W・アトキンソンが、期待とモチベーションとの関係を科学的に研究しました。

結果を一言で言うと、次のようになります。


「モチベーションと努力の度合いは、成功する見込みが50%に達するまでは上昇を続け、それを過ぎると下降し始める」


例えば、大企業の新入社員に「3年後に社長になれ!」と言っても本気でその期待に応える努力はしないでしょう。
逆に、「10年後に係長になれ!」と言っても燃えてこないでしょう。


どのくらいの期待が適切かは、会社によって異なると思いますが、「できるかできないか、やってみなければわからない」レベルが最もモチベーションが上がるということを踏まえておけば良いでしょう。


また、ピグマリオン・マネジメントにおいて、絶対に避けなければならないものがあります。


それは、「沈黙」や「冷淡な態度」です。

リビングストンはこう述べています。


「マネジャーが全く口を利かず、冷淡で話づらい様子の場合、部下に不満を感じているか、部下を見込みのない人間であると烙印を押している証拠である」


やはり、マネジャーが心の底から本気で期待をかけ、その期待を熱意を持って伝えなければならないのです。


そして、その期待の影響がもっとも大きいのが若手社員です。


特に、「大卒の新入社員を最初に配属させる先の上司は、社内で一番優秀な人物でなければならない」と指摘しています。


リクルートワークス研究所の調査によれば、正社員の22〜24歳の頃は、「自分を高めたい」「競争に勝ちたい」という「動機」と、成長についての「不安」の双方が高い時期です。


そのような時期に、上司が若手社員に対して大きな期待を心の底からかけ、熱意を持って伝えれば、さらに動機を高めると同時に不安を打ち消すことができるでしょう。


よく、「今の若手は元気がなく受け身」だと言う人もいます。
また、今年の新入社員は「○○型」などとマスコミがレッテルを貼ったりします。


そのような先入観を持ってしまうと、逆に期待のレベルが下がり、若手社員に悪影響をあたえてしまうことになりかねません。


では、どのようなマネジャーが若手を育てる事が出来るのでしょうか?


それは、自らの成功体験からくる自信を持ったマネジャーです。


リビングストンは以下のように述べています。


「優秀なマネジャーには、輝かしい経歴と自分の能力への確信があるため、何のためらいもなく部下たちに高い期待を寄せることができる。したがって、部下たちも上司の期待を現実的なものとして受け入れ、それに応えようと努力する」


そして、さらにこう述べています。


「マネジャーが部下を訓練し、動機づける能力を深く信ずることこそ、現実的で高水準の期待を築く土台なのである」


人を信じ期待できるようになるためには、まず、自分を信じることが大切なのです。

そのためには、自分が、己の成長に高い期待をかけ、それに応えるよう学び続けていくことが必要でしょう。


「【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践」には、「ピグマリオン・マネジメント」の他にモチベーションに関する八本の論文が収められています。
動機付けに自信を持ちたい方は、何かヒントが得られるかも知れません。

興味がある方はご一読頂ければと思います。