人は職場でどのように成長していくのか?
一般的なビジネスパーソンが職場で過ごす時間は、6万8400時間にもなるそうです。
そのような長い時間を過ごす職場の中で、人はどのように学習し、成長していくのでしょうか?
そして、どうすればその成長をさらに促す事が出来るのでしょうか?
そのような問いについては、経験則的な自論を持っている方は多いと思いますが、実証的な裏付けはほとんどなかったのではないでしょうか。
東京大学大学総合教育研究センター准教授の中原淳先生が、「職場学習論」という本の中で実証的な調査に基づいて論じています。
まず、職場内の学習においては、他者からの支援が重要になりますが、その支援には3つの種類があります。
それは、「業務支援」「内省支援」「精神支援」の3つです。
「業務支援」とは、業務に関する指導・助言です。
これは、具体的に指導するティーチングと言えるでしょう。
「内省支援」とは、仕事上の経験や自分自身のあり方などについて、客観的に振り返る機会をあたえられることです。
これは、問いかけが主体となるコーチングに近い関わりと言えるでしょう。
「精神支援」とは、ちょっとした息抜きや、心の安らぎを促すような支援です。
いわば、カウンセラーのようなものとも言えるでしょう。
では、どのような支援が能力向上につながっているのでしょうか?
中原先生の調査によれば、以下の支援が有効という結果が出ています。
・上司からの「内省支援」と「精神支援」
・先輩からの「内省支援」
・同僚や同期からの「内省支援」と「業務支援」
「内省支援」については、上司だけでなく先輩・上位者や同僚・同期からも受けることが成長に繋がるということになります。
比喩的に言えば、「タテ・ヨコから内省を促す職場」がより人を成長させるのでしょう。
また、上司からの「精神支援」も有効という結果は、旧来の上司像からすると意外なものかもしれません。
もちろん、厳しさも必要ですが、その合間にちょっとした優しさを垣間見せると逆に効果的なのでしょう。
この結果からすると、マネジャーは、コーチやカウンセラーのような関わりをしていくのが良いと言えるでしょう。
細かい業務指導等は、同期・同僚が互いに学び合うような自発的な仕掛けをつくり、マネジャーとしては、部下が仕事で得た経験の意味を内省し、自らのセオリーを導き出すようなきっかけを与えることに注力すべきでしょう。
では、「タテ・ヨコから内省を促す職場」を生み出すポイントは何なのか?
中原先生の調査によれば、それは職場に存在する「互酬性規範」です。
「互酬性規範」とは、以下の4項目から構成される尺度です。
「困ったときにお互い助け合っている」
「他者を助ければ、いずれその人から助けてもらえる」
「他者を助ければ、今度は自分が困っているときに誰かが助けてくれるように自分の職場はできている」
「人から親切にしてもらった場合、自分も職場の他の人に親切にしようという気持ちになる」
つまり、「イイ人が損をする」ような職場では、成長に有効な支援は見込めないということになります。
ちなみに、この調査では、「学習資源(時間・資金・報酬)」という尺度も設定していましたが、それは「内省支援」の有無とは関係がないという結果が出ています。
あくまでも学習に関する時間やお金の多寡ではなく、お互いに助け合う職場風土があるかどうかが重要ということになります。
「現場では人材育成に割く時間なんかとても取れない・・・」と言うのは良く聞く聞きますし、私としてもつい共感してしまうのですが、そう嘆く前に職場風土を見直さなければいけないのでしょう。
では、その「互酬性規範」を高めるものは何なのでしょうか?
中原先生は、様々な企業でのヒアリング調査の結果から、「互酬性規範」を高めるのは、現場のマネジャーの振る舞いであると、仮説を立てています。
例えば、マネジャーが、異なる得意分野をもつ若手社員同士をペアを組んで仕事をするように、割り振るということでも、互いに助け合うような状況を創り出すことが可能になります。
まとめていえば、職場における人材育成とは、マネジャーや上位者だけが行うのではなく、ましてや「研修」をやればいいというものでもなく、「職場の中の人々の関係」で達成するものだということです。
「職場学習論」には、上記の他にも様々な有益な知見が導かれていますが、要旨だけにしてもここには書ききれないので、ぜひご一読をお勧めします。
どちらかといえば、ビジネス書というより学術書的な感じです。
しっかりとした統計データが記載されているのは、本書の知見を自分の職場に展開する場合に、他の人を説得する際にも役立つのではないかと思います。
職場における人の成長というテーマでは、ビジネス書的な感じで実務家の方が語られる事例はよくあります。
しかし、そのような事例ですと、人によってはたまたまうまくいった特殊な事例として、「自社とは違う」と片付けられてしまう場合も良くあると思います。
そのような観点から言えば、様々な企業を対象にした科学的な分析に基づいた人材育成の知見というのは、個別の企業の事例より客観性が高く有用だと言えるでしょう。
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