1.人の成長を願う企業のリーダー・管理職・教育担当者の方へ

組織的な視点やマネジメントの視点からテーマをとらえた記事です。

サムスンに学ぶ鋼の人材育成コンセプト


「人を育成しないのは罪悪である」


世界中に約30万人の従業員を擁するサムスンには、このような言葉があるそうです。


確かに、企業において人材育成はとても大切なことだと思います。
しかし、それを疎かにすることを「罪悪」とまで言い切ってしまうのには、サムスンの人材育成に対する鬼気迫る程の強烈な想いを感じました。

冒頭の言葉は、「サムスンの戦略的マネジメント」(片山修著)という本の中に書かれています。


私も様々な企業事例を調べていますが、グローバルに事業を展開している優良企業の人材育成には、特に以下の2つの特長があると思っています。


  • 求める人材像が明確に定義され、シンプルな言葉で明文化されている
  • 強固な人材育成のコンセプトが一貫性をもって実践されている

これが、独自性のある人材育成の仕組み作りの源泉になり、他の企業と明確に差異化された強みを生み出し、厳しいグローバル競争に勝つことができるのでしょう。


冒頭の言葉が象徴的だと思いますが、サムスンの人材育成においても、この2つの特長が濃厚に見て取れます。


サムスンの人材育成への取り組みについては、「サムスンの戦略的マネジメント」の中で紹介されています。


例えば、サムスンでは、どのような新人研修を行っているのでしょうか?


同書から引用します。(P163より引用)


サムスンでは、入社後、25泊26日の合宿生活がある。対象は新入社員約8000人だ。
朝5時30分から夜9時まで、20人から30人が一つのチームとなり、与えられた課題に取り組む。課題の内容は、経営理念、歴史、社会人マナー、経営、経済などだ。重点が置かれているのは、創造力、チームワーク、克己、限界能力の養成である。
社会奉仕活動もある。
教育の70%〜80%が体験型、参加型で、先輩社員による後輩指導が伝統的に行われているという。

6月には「夏期修練大会」プログラムがある。
目的は、新入社員に共同体意識を植えつけることだ。約8000人の新入社員が、グループ関係会社のCEO、新任役員など500人とともに、1泊2日のプログラムをこなす。


新入社員8000人となっていますが、これはグループ全体での人数です。
関連会社の同期社員が全員で同じ研修を受けることで、自然と協力関係も深まるのでしょう。


一読すると、まさに軍隊風の厳しさを感じる内容です。
今時の日本企業ではこのような研修は行われていないでしょう。


しかし、よくよく考えてみると、韓国経済の命運を背負ったグローバル企業だからこそ、上記のプログラムが必然となるのだと納得できます。


サムスンには、「サムスン憲法」があります。
その内容は以下の4つです。


  • 人間味(心温かい人間性)
  • 道徳性(道徳、公徳心)
  • 礼儀凡節(東洋の伝統規範を守る)
  • エチケット(世界で通用するマナーを守る)

また、経営理念には、以下の3つが掲げられています。


  • 事業報国
  • 人材第一
  • 合理追求

これが、サムスングループの全社員に浸透しています。


新入社員に、このような人間性の根幹に関わるような共通意識を徹底するには、頭で理解するだけではなく、長期に渡り寝食を共にし体験を共有することが必要でしょう。


また、サムスンでは求められる人材像を以下のように定義しています。
(同書P156より引用)


・創造人

柔軟な思考と創造力をもとに、自分なりの個性と"気"を伸ばしていく人


・世界人

国際的な素養と外国語の能力をもとにして、互いに異なる人種や文化を積極的に受け入れられる人

・学習人

絶えず変化する"一生学習”の時代において、新しい知識と情報を絶えず習得していき、一つの分野の専門家として成長していく人

・社会人

人間味と道徳性を基盤に、ともに生きる健全な社会構成員として、自身の役割と責任を果たす人


このような人材になることが求められていることを、新入社員が深く理解するためには、朝5時半から夜9時まで課題に取り組む厳しさを乗り越える試練が必要でしょう。


また、特に「世界人」としての意識を持たせるには、世界のグループ社員が一堂に会して研修を受けることが有効となるでしょう。


例に挙げた新入社員研修だけを見ても、世界中の約30万人が、同じ価値観や思考様式を共有しスピーディに協調して動けるようになることを、明確な目的とした一貫性が感じられます。


そして、その一貫性とは、サムスンが、自社の経営理念や求める人材像、サムスン憲法などの人材育成に関するコンセプトを、どう具現化するか考え抜いた結果の現れなのでしょう。


最近では研修の費用対効果なども話題になります。
サムスンでは、前述のとおり、新入社員約8000人を25泊26日かけて教育しています。
これには、かなりのコストや労力がかかるはずです。
しかし、それはグローバルな競争に勝つために必要な投資と考えているのでしょう。


新入社員研修だけに限らず、人材育成プログラムを考えるときには、自分たちの会社が本当に大切にしているものを問い直すことが必要なのでしょう。
本当に大切なものが見えれば、目的も明確になり、手法やコストも自社にとって適切なものになってくるでしょう。


そして、他社と明確に差異化された、独自性と一貫性がある人材育成の仕組みができあがっていくはずです。


サムスンの、鋼のように強固な人材育成コンセプトの徹底ぶりを見て、改めてそう感じさせられました。


その他にも、同書には、日本企業を脅かす勢いを持つサムスンの、マネジメントの実情が書かれています。
興味のある方は、読んでみると有益なヒントが多く得られると思います。

イノベーションを起こす人材を育成するには?


今、世界中の企業が、新たなイノベーションを求めています。


では、新たなイノベーションを生み出せるのは、どのような人材なのでしょうか?
イノベータのスキル要件を明確にすれば、育成も効果的にできるでしょう。


イノベーション研究の第一人者である、ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンらが、イノベータに特徴となる5つのスキル(発見力)を明らかにしました。


その研究成果は、最新の著書「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」にまとめられています。


まず、イノベータのDNAとも言える5つの特徴的なスキル(発見力)とは、以下の通りです。


1.関連づける力

2.質問力

3.観察力

4.ネットワーク力

5.実験力


クリステンセン教授らは、約8年間にわたる研究からこの5つのスキルを抽出しました。
その研究は、75カ国以上の500名を超えるイノベータと5000人を超える経営幹部のデータを分析したり、100名近くの革新的な起業家やCEOに対するインタビューを行うという、かなり大規模なものです。

インタビューの対象も、アマゾン・ドットコムジェフ・ベソスP&GA・G・ラフリーなどの著名人が多く含まれています。


今までも、イノベータの特性については色々なものが言われてきました。
それは、表現に多少の違いはあれ、「5つのスキル」とほぼ重なるものも多かったと思います。
見方によっては、それほど目新しいものではないかもしれません。


しかし、その根拠となる研究データについては、過去に類をみない実証的なものです。単に、スティーブ・ジョブスのような、特定の個人だけを分析したものではないのです。


だからこそ、クリステンセン教授らが提示した「5つのスキル」は、イノベータを育成するためのフレームワークとして、有効に活用できるものだと思います。


本書の中でも特に強調されているのは、「5つのスキル」は後天的に育成できるという主張です。


本書にはこう書かれています。


「イノベーションに必要な能力のほぼ3分の2が、学習を通じて習得できる。まず、能力について理解し、練習を積めば、やがて自分の創造力に自信を持てるようになる」


遺伝に関する先行研究でも、創造性は、知性(IQ)よりも遺伝で説明できる割合が少ないという結果がでているのです。


では、「5つのスキル」とはどのような力なのでしょうか?


1.関連づける力


これは、一言で言えば、「意外な組み合わせ」を作る力です。
かけ離れた異質なアイディアや商品やサービス、技術などを結びつけることによって、全く新しいものを生み出すのです。


組み合わせの素となるものは、特に目新しくない既存のものであったり、他の人の頭の中のアイディアであったりします。
しかし、その「組み合わせ方」が斬新であれば、イノベーションを起こすことができるのです。


そして、その「関連づける力」を誘発するのが、その他の4つのスキルです。


2.質問力


質問というのは、特に特別なものではないように思われているかもしれませんが、イノベーションのきっかけとなるとても重要なものです。


クリステンセン教授らはこのように書いています。


「イノベータは『いまどうなのか』(現状)と『これからどうなるのか』(可能性)について理解を深めるために、たくさんの質問をする。無難な質問は捨て置いて、型破りな質問をする。質問によって現状に異を唱え、おそるべき激しさと執拗さで時の主流派を脅かすことも多い」


インドのタタグループ会長ラタン・タタはこのように言っています。


「疑う余地のないことを疑え」


つまり、「質問力」とは、既存の枠組みや常識を越えて、新たな可能性を探求する力だと言えるでしょう。


3.観察力


以前から、イノベーションの手法の一つとしてエスノグラフィーが注目されていましたが、やはり、あたかも人類学者のように顧客を「観察」する力は、イノベータの重要なスキルなのです。


クリステンセン教授らによると、次のような枠組みで観察を行うと新たな発見の可能性を高めることができます。


  • 顧客がどんな用事を片づけるためにどんな製品を使っているかを積極的に観察する
  • 意外なことや普通でないことに注目する
  • 新しい環境の中で観察する機会を見つける

4.ネットワーク力


これは、多様な人たちと幅広くつながることで、新たなアイディアを創造することです。


人とのつながりと言っても、「ネットワーク力」は俗に言う「人脈」とは少し異なる意味合いがあります。


一般的に「人脈づくり」というと、自分や商品を売り込んだり、仕事を有利に進めたり出世に利用したりということを、目的にする場合があります。


しかし、イノベータはそのような目的の「人脈づくり」はあまりしません。

あくまでも新しいアイディアや洞察を引き出すために、色々な考えや視点を持った自分と異質な人たちとのネットワークを作り上げるのです。


5.実験力


これは、有名なエジソンの言葉に象徴される力と言えるでしょう。


「失敗などしていない。うまくいかないやり方を一万通り見つけただけだ」


イノベータは、実験を重ねながら、自分のアイディアが実際にどの程度成功するかを予測するための手がかりを手に入れ、革新的なビジネスモデルを粘り強く練り上げていくのです。

しかし、実験と言っても、イノベーションにつなげるには、科学者が実験室で行うようなものよりも、幅広くとらえる必要があります。


クリステンセン教授らは、イノベータは次の3種類の実験のうち、少なくとも一つを繰り返し行っていると指摘しています。


  • さまざまな試みを通して新しい経験をすること
  • ものを分解すること
  • 実証実験や試作品を通してアイディアを検証すること

例えば、一番目については、異文化の中で暮らしたり働いたりすることも含まれます。


実は、この幅広い実験力こそが、イノベータと非イノベータを最も区別するスキルなのです。


以上が、「5つのスキル」の概要ですが、本書では、それぞれのスキルを伸ばすためのヒントも提示されています。

例えば、このような面白いヒントもあります。


「睡眠によって、つながりのないものをつなげて、すばらしいアイデアを生み出せる確率が平均33%も高まるという」


また、「5つのスキル」を組織やチームに適用する方法も提示されています。


興味のある方は、本書を読んでいただければ、多くの有益なヒントを得られると思います。


イノベーションと言っても、いきなり大上段に構えてしまうと難しいと思います。
クリステンセン教授らも、こう言っています。


「とはいえ、われわれ一般人は多くの些細な(派生的)イノベーションを通して、世の中を変えていくのだろう」


まずは、身近な問題に「5つのスキル」を試して、確実な一歩を踏み出すことが大切なのでしょう。

初めてリーダーになった方に贈る5冊の本

ビジネスパーソンの人生の中で、最も大きな転機とはなんでしょうか?


それは、初めて、人を指導したり育てたりする立場、いわゆる「リーダー」になった時です。


マネージャー、チームリーダー、チーフ、主任、係長など、その立場の呼び方は組織によって様々ですが、単なるプレーヤーとの違いは共通するものです。


それは、「自分のことだけを考えるのをやめて、他人について考えはじめなければならない」ということです。


例え、自分がリーダーとして率いるメンバーが一人であったとしても、会社から人を預かるようなものですから、やはりしっかり育てる責任が伴います。

そのリーダーとしての役割を果たすためには、プレーヤーの時とは違う知識やスキルが必要になります。


でも、初めてリーダーとなった時に、それを丁寧に教えてもらえる機会は多いでしょうか?


ハーバード・ビジネス・スクールのリンダ・ヒル教授は、次のように言っています。


「マネジャーとしての行動の仕方を身につける事は、控えめに言っても気が遠くなるくらい難しい。それなのにほとんどの組織では、そのための支援がまったくと言っていいほど存在しない」


会社によって違いは大きいと思いますが、新しく正式な役職に昇格した時は、1日〜3日間程度の研修を受けるのが一般的でしょう。


しかし、正式な役職に就かなくても、リーダー的な役割を担うケースはとても多いものです。
そのような場合は、リーダーとして必要な知識やスキルを十分に学べないのがほとんどです。

特に若手社員でリーダーになった方は戸惑うことも多いようです。


そのような新米リーダーの状況は、決して日本の会社に限った事ではなく、先のリンダ・ヒル教授の言葉の通りアメリカでも同じなのです。


「自分のことだけを考えるのをやめて、他人について考えはじめなければならない」


そのような大きな転機を、不安を抱えながら手探りで乗り越えていくのは、かなり大変な試練でしょう。


そこで、初めてリーダーになった方にお勧めの本を五冊紹介しておきます。


リーダーに関する本は本当に沢山出ていますが、とりあえず「これだけ知っておけば何とかやっていける!」という内容のものを五冊に絞り込みました。

書店で平積みになるような流行ものではなく、多くの人に読み継がれている名著を選んでいます。


初めてリーダーになって不安を抱えている方は、ぜひ騙されたと思って読んでみて下さい。

そして、その中に書かれている事を職場で実践してみて下さい。

きっと、書いてある事を実践することの難しさを実感すると思います。

その時はまた、本を開いて、次にどうするか考えながら読んでみて下さい。

その繰り返しが、必ずリーダーとしての実力を高めていきます。


◆1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!
 K.ブランチャード 、S.ジョンソン (著)


管理している部下の顔を一人一人、一日の

ほんのわずかな時間でいいからチェックしよう。

そして、部下こそもっとも大切な財産であることを、肝に銘じよう。


こんな言葉から始まる、すぐれたマネジャーを目指す青年が、人を育てるための基本的な原則を学んでいく物語です。

1分間目標設定、1分間称賛法、1分間叱責法など、行動科学理論に基づいたシンプルで実践的な方法を学ぶ事が出来ます。


1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法
K.ブランチャード (著)


上に紹介した、「1分間マネジャー」と合わせて読むとより理解しやすいです。


どのように人を育成するかについて、次のように意見が分かれる事が良くあります。


「やっぱり、細かく口を出して指導した方が良い」

「いや、あまり細かく口出しせず、任せて自分で考えさせた方が良い」


どちらが良いかは育成するメンバーの意欲や習熟度に応じて変わるという「状況対応型リーダーシップ」理論を、物語形式でとても簡単に説明してくれる本です。


◆人を動かす 新装版
デール.カーネギー (著)


とても有名な古典的名著ですが、初めてリーダーになった時こそ改めて読み返すべきでしょう。

タイトル通り、リーダーは人を動かす存在であり、その仕事はレベルが上がれば上がる程、対人関係への対処の割合が多くなるからです。


時々目次を眺めるだけでも、改めて自分がまだまだ出来ていない事を気付かされたりします。


例えば、「人を変える9原則」。


・まずほめる
・遠まわしに注意を与える
・自分のあやまちを話す
・命令をしない
・顔をつぶさない
・わずかなことでもほめる
・期待をかける
・激励する
・喜んで協力させる


ちなみに、Google日本法人名誉会長の村上憲郎さんも、この本の目次を読むのを毎朝の習慣にしていたそうです。


◆プロカウンセラーの聞く技術
東山 紘久 (著)


リーダーとして最も大切なのは、「メンバーから相談されやすい雰囲気を作る」ことです。

そのためには、「聞く技術」を磨く必要があります。

しかし、人の話をしっかりと聞くというのは、簡単そうでなかなか難しいものです。

例えば、相手が話しやすくするには、どんなことを心がければ良いのでしょうか?

本書には、こう書かれています。


「どれほど深刻な話でも聞き手が余裕をもち、飾らず、オープンで、ユーモアのセンスに富んでいますと、話し手も心の自由度が広がり、心から話ができるようになるのです」


やさしい言葉でわかりやすく書かれていますが、カウンセリング理論に根ざした正しい知識を得る事ができる本です。


◆コーチング・マネジメント―人と組織のハイパフォーマンスをつくる
伊藤 守 (著)


コーチングはリーダーとして身につけるべき必須スキルの一つですが、実践を通してしか身に付かないものです。

多くの本が出ていますが、知識としては、この本一冊を読んでおけば十分です。

あとは、書いてある事を失敗を恐れず繰り返し実践していけば良いでしょう。


以上、私の独断と偏見かもしれませんが、初めてリーダーとしての役割を担う方にとっては、「ベスト5」だと思います。


私自身、ここで紹介した本に書いてある事を、本当に高いレベルで実践できるようになるのは簡単ではなく、一生の仕事なのだと思う時もあります。


リーダーの仕事は、「自分を育てる」ことを通して、人を育てることなのかも知れません。


そのために、本を読み実践して、また本を読みながら自らを振り返る。

そのプロセスを愚直に続けていく事が大切なのでしょう。

劇団ひとりさんとディズニーランドから教わった人を育てるヒント


タレントの劇団ひとりさんが、以前、読売新聞の書評の中でこんなことを書いていました。


「年齢を重ねるにつれ、そういった『あたり前』の事が如何に正しい事であると分かり始める。
考えてみれば、人類が誕生してから数百万年、その間を生きてきた先輩方が身を挺して繰り返し実験してきた人生の研究結果こそが、その『あたり前』なのである。
僕ら後輩は何の手間もかけずにそれを実践すればいいのだから、ありがたい話だ」


よくよく考えてみると、私たちが出会うような問題のほとんどは、既に多くの人類の先輩が経験したものと本質的には同じです。


そして、その解決策の本質が「当たり前」の事なのです。

その「当たり前」は、人類の長い歴史に根ざしたものであるが故に、私たちの感覚や日々の言葉の中に溶け込んでいます。


例えば、良好な人間関係を築くためにはどうすれば良いでしょうか?


そのためには、「まず自分から笑顔であいさつをする」。


まさに、これは「当たり前」の答えで、誰も異論を唱える事はないでしょう。

でも、それをいつも実践し続けるのは意外と難しいかも知れませんね。


劇団ひとりさんも、こんな風に言っています。


「『ちゃんと挨拶をする』こんな当たり前のことも重要な研究結果である。テレビ局に行き『なんかチャラチャラした若造がいるな』と言っておざなりの挨拶をしてしまい、後にプロデューサーの息子だと知り、脇が汗でびっしょりとなったのはこの私」


私にも似たような経験があり、『当たり前』の事こそ意外とおざなりになってしまうと反省する事は多いです。


人材育成やリーダーシップ・マネジメント等においても、劇団ひとりさんの言葉がそのまま当てはまると思います。


マネジメント研究で有名なヘンリー・ミンツバーグ教授は、「どんな場面でも通用するマネジメントの必勝法など存在しない」と言っています。


確かにその通りなのですが、私は、たった一つだけ、以下のような『必勝法』があるのでないかと思っています。


「『当たり前』を素直に実践する」


やはり、色々と調べてみると、優秀な人材が多く育ち顧客に支持されている企業は、当たり前のことを素直に実践しています。


例えば、東京ディズニーランド。


オリエンタルランドで社員教育を担当していた福島文次郎さんは、著書「9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方」の中で、リーダーシップの要件について書いています。
(本に興味がある方は、記事冒頭の画像をクリックして下さい。アマゾンにリンクしています)


ディズニーランドにおけるリーダーシップとは以下の二つです。


(教える人が)
1.ホスピタリティマインドを持っている事
2.自分が模範となること


「ホスピタリティマインド」とは、相手を思いやる心のことですが、まさに『当たり前』ですよね。

聖書にも、「何事でも人々からしてほしいと望むことは、人々にもそのとおりにせよ」ということが書かれています。


また、2番目についても、古くから「率先垂範」と言われ続けてきた『当たり前』の事です。

論語にも、「まず言いたい事柄を実行し、その後で、自分の主張を述べる人こそ君子である」という意味の言葉があります。


つまり、多くの人が感動するような高いレベルの顧客満足を誇る東京ディズニーランドは、特別で斬新なことをしているのではなく、紀元前の昔から受け継がれている『当たり前』を実践しているだけなのです。


そして、人を指導するための『当たり前』を上司や先輩が実践している姿を見て、アルバイトを含めた全てのキャストが育っていくのです。


もちろん、組織的に『当たり前』の実践を徹底するためには、それなりの仕組みや仕掛けも必要です。


それも根本的な『当たり前』に立ち戻りながら、それぞれの状況に当てはめて本気で考えれば自ずから答えが出てくる事でしょう。


問題意識を持って本を読めば、諸先輩方の研究結果も参考にする事が出来ます。

「ディズニーの教え方」にも、色々なヒントが書かれています。


例えば、後輩のモチベーションを高めるためには、次のようなことが重視されています。


・笑顔のあふれる職場をつくる

・仕事の重要性を認識させる

・「誇り」をもてる環境をつくる

・指示する時は、必ず「理由」も伝える

・後輩によい点を見いだせば、すぐにほめる


これも、言われてみれば全部『当たり前』ですね(笑)


人によっては、「ディズニーは特別だ」と思うかも知れません。

でも、繰り返しになりますが、東京ディズニーランドのキャストを育てる基本的な考え方は、「ホスピタリティ」と「率先垂範」であり、特別なものではないのです。


決して「魔法」を使っているのではなく、『当たり前』を素直に実践しているだけなのです。


人材育成を進めていく中で色々な課題が出てきますが、頭の中であれこれと難しく考え過ぎるより、人類の先輩が残してくれた『あたり前』をありがたく受け取って、素直に実践していく方が良いのかも知れませんね。

職場によみがえるギリシャ神話


「レディと花売り娘との本当の意味での違いは、彼女がどう振る舞うかではなく、どう扱われるかです」


これは、イギリスの劇作家ジョージ・バーナード・ショーの戯曲「ピグマリオン」の中の台詞です。ちなみに、「ピグマリオン」という言葉は、ギリシャ神話が由来になっています。(神話の内容は文字リンク先を参照して下さい)


この台詞は、少し言葉を変えれば、そのまま職場にもあてはまるのではないかと思います。


「高業績社員と低業績社員の本当の意味での違いは、社員がどう振る舞うかではなく、マネジャーにどう扱われるかです」


つまり、マネジャーが期待をかけて社員に接するのか、そうでないかが、業績に大きな影響を与えるということです。


先日の記事で、スティーブ・ジョブスが社員に大きな期待をかけることで革新的な商品やサービスを生み出す話をしましたが、それはカリスマの特別な事例ではありません。


元ハーバード・ビジネススクール教授のリビングストンは、マネジャーの期待と業績の関係を様々な事例から研究し、「ピグマリオン・マネジメント」という論文にまとめています。
この論文は、「【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部・編訳)に収録されています。

以下に、リビングストンの結論を引用します。


マネジャーが部下に何を期待し、どう扱うかによって、部下の業績と将来の昇進がほとんど決まってしまう。

優れたマネジャーの特徴とは、「高い業績を達成できる」という期待感を部下に抱かせる能力のことである。

無能なマネジャーは、部下にこのような期待感を与えることができず、その結果、部下の生産性も上昇しない。

部下は部下で、自分に期待されていることしかやらない傾向が強い。


では、「期待」は大きければ大きい程良いのでしょうか?

リビングストンは、こう述べています。


「マネジャーの期待が業績の向上となって表れるには、まずその期待に現実性があるという点をクリアしなければならない」


「部下が上司の期待は現実的で、実現可能なものだと考えないことには、高い生産性の目標を達成させるインセンティブにはなりえない」


つまり、マネジャーが実現可能な範囲で最大限の期待をかけることと、部下がその期待に応えられることを確信することが重要なのです。


では、「実現可能な範囲で最大限」とはどの程度なのでしょうか?


ハーバード大学のデビット・C・マクレランドとミシガン大学のジョン・W・アトキンソンが、期待とモチベーションとの関係を科学的に研究しました。

結果を一言で言うと、次のようになります。


「モチベーションと努力の度合いは、成功する見込みが50%に達するまでは上昇を続け、それを過ぎると下降し始める」


例えば、大企業の新入社員に「3年後に社長になれ!」と言っても本気でその期待に応える努力はしないでしょう。
逆に、「10年後に係長になれ!」と言っても燃えてこないでしょう。


どのくらいの期待が適切かは、会社によって異なると思いますが、「できるかできないか、やってみなければわからない」レベルが最もモチベーションが上がるということを踏まえておけば良いでしょう。


また、ピグマリオン・マネジメントにおいて、絶対に避けなければならないものがあります。


それは、「沈黙」や「冷淡な態度」です。

リビングストンはこう述べています。


「マネジャーが全く口を利かず、冷淡で話づらい様子の場合、部下に不満を感じているか、部下を見込みのない人間であると烙印を押している証拠である」


やはり、マネジャーが心の底から本気で期待をかけ、その期待を熱意を持って伝えなければならないのです。


そして、その期待の影響がもっとも大きいのが若手社員です。


特に、「大卒の新入社員を最初に配属させる先の上司は、社内で一番優秀な人物でなければならない」と指摘しています。


リクルートワークス研究所の調査によれば、正社員の22〜24歳の頃は、「自分を高めたい」「競争に勝ちたい」という「動機」と、成長についての「不安」の双方が高い時期です。


そのような時期に、上司が若手社員に対して大きな期待を心の底からかけ、熱意を持って伝えれば、さらに動機を高めると同時に不安を打ち消すことができるでしょう。


よく、「今の若手は元気がなく受け身」だと言う人もいます。
また、今年の新入社員は「○○型」などとマスコミがレッテルを貼ったりします。


そのような先入観を持ってしまうと、逆に期待のレベルが下がり、若手社員に悪影響をあたえてしまうことになりかねません。


では、どのようなマネジャーが若手を育てる事が出来るのでしょうか?


それは、自らの成功体験からくる自信を持ったマネジャーです。


リビングストンは以下のように述べています。


「優秀なマネジャーには、輝かしい経歴と自分の能力への確信があるため、何のためらいもなく部下たちに高い期待を寄せることができる。したがって、部下たちも上司の期待を現実的なものとして受け入れ、それに応えようと努力する」


そして、さらにこう述べています。


「マネジャーが部下を訓練し、動機づける能力を深く信ずることこそ、現実的で高水準の期待を築く土台なのである」


人を信じ期待できるようになるためには、まず、自分を信じることが大切なのです。

そのためには、自分が、己の成長に高い期待をかけ、それに応えるよう学び続けていくことが必要でしょう。


「【新版】動機づける力―モチベーションの理論と実践」には、「ピグマリオン・マネジメント」の他にモチベーションに関する八本の論文が収められています。
動機付けに自信を持ちたい方は、何かヒントが得られるかも知れません。

興味がある方はご一読頂ければと思います。

人は職場でどのように成長していくのか?

一般的なビジネスパーソンが職場で過ごす時間は、6万8400時間にもなるそうです。

そのような長い時間を過ごす職場の中で、人はどのように学習し、成長していくのでしょうか?

そして、どうすればその成長をさらに促す事が出来るのでしょうか?

そのような問いについては、経験則的な自論を持っている方は多いと思いますが、実証的な裏付けはほとんどなかったのではないでしょうか。

東京大学大学総合教育研究センター准教授の中原淳先生が、「職場学習論」という本の中で実証的な調査に基づいて論じています。


まず、職場内の学習においては、他者からの支援が重要になりますが、その支援には3つの種類があります。

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脳波がゲーム感覚ではかれる時代に・・・

脳波を測定して、相手に対する好き嫌いがわかってしまうゲームが出来た・・・。
脳波から感情や意識を即座に判定できるシステムは、企業の教育にも応用できそうですね。
ちょっと、怖い時代になりそうが気もしますが(笑)

私のこと好き? 嫌い? 見つめるだけで気持ちがバレる脳波ゲーム「BrainKiss」

人事も空洞化する?

シンガポールが、人事分野の多国籍企業を誘致し、産業として振興する方針を出したそうです。
日本もぼやぼやしてると、製造だけでなく、人事も「空洞化」してしまう可能性がありますね。

http://www.asiax.biz/news/2011/09/30-100604.php

人はどんな時に自ら動きたくなるのか?


「社員が、やらされ感を持ちながらでなく、自ら考えて行動するようになって欲しい・・・」

ほとんどの会社の管理職や人事の方が、このような気持ちを持っていると思います。


では、どうすれば社員が自ら動くようになるのか?


この問いかけに答えてくれる本が、「人を伸ばす力〜内発と自律のすすめ」です。(本に関する詳細は記事中のリンクを参照して下さい)


「内発的動機付け」という言葉がこの本の主題ですが、これは外部から働きかけられて出てくるのもではなく、自分自身の内部からわきあがってくるモチベーションの事です。


言葉自体は知っている方がほとんどだと思いますが、その心理的な仕組みや、科学的根拠を理解している方は少ないようです。


もし、「社員に自ら動いて欲しい」と願うのであれば、そのための「内発的動機付け」について、せめて知識レベルで熟知しておく事は必要だと思います。


こんな風に書いていると、「小難しい本で実務的には役に立たないのでは?」と思われるかも知れませんが、一般向けなので内容はかなりわかりやすいです。

以下に、簡単に書かれている内容のごく一部をまとめておきます。

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人材育成の拠り所となるもの


職場のメンバーのモチベーションアップや能力向上など、人を育てる上での課題は尽きません。
私たちは、その課題に対して打ち手を考え解決していかなければなりませんが、その拠り所として重視すべきものはなんでしょうか?


それは、実証的な「理論」や「定石」です。


日本各地のホテルや旅館を運営し高い業績を上げている星野リゾート社長の星野佳路氏は、「星野リゾートの経営は『教科書通り』である」と言い切っています。


「星野リゾートの教科書」という本の中で、星野社長は次のように言っています。


「私は1991年に星野リゾートの社長に就任して以来、経営学の専門家が書いた『教科書』に学び、その通りに経営してきた。社員のモチベーションアップも、サービスの改善も、旅館やホテルのコンセプトメイクも、私が経営者として実践してきたことはすべて教科書で学んだ理論に基づいている」


例えば、バブル崩壊後に経営が破綻した北海道のスキーリゾート・トマムの運営を、星野リゾートが引き継ぎ立て直した時には、フィリップ・コトラーの名著「コトラーのマーケティング・マネジメント基本編」に書かれている競争地位別戦略を土台にしました。


では、なぜ星野社長は「教科書通りの経営」を実践し続けているのでしょうか?


星野社長はこう言っています。


「私が参考にする教科書の多くは、米国のビジネススクールで教える教授陣が書いたものだ。彼らは、ビジネスを科学するという思想の下、数多くの企業を対象に手間と時間をかけて事例を調査し、そこから法則を見つけ出し、理論として体系化している。その内容は学問的に証明され、一定条件のもとでの正しさはお墨付きなのだ」


確かに、経営学やマネジメント、リーダーシップ等に関する分野の研究については、実際の企業の事例を分析したり、企業の中で仮説を実行に移して結果を検証したり、実証的に行われています。


そのような研究から導かれた理論は、決して机上だけのものではなく現実に活用できるものと言えるでしょう。


人事部の視点でも、現場の視点でも、人材育成は経営において重要な要素です。


企業内の人材育成についても、経営学や心理学など分野から様々な実証的な理論が提唱されています。


もちろん、人を育てる立場の方が、個人として培ってきた「経験」もとても大切なものだと思います。


しかし、個人で経験できる範囲は限られています。
個人的な経験則に加えて、多くの先人の知恵や経験や研究が濃縮された体系的な「理論」があれば、人材育成においても、より正しい判断ができるようになります。


星野社長は、教科書に従うメリットについて次のように言っています。


「経営判断の根拠や基準となる理論があれば、行動のぶれも少なくなる。自分の下した決断に自信を持てるようになり、社員に対して判断の理由を明快に説明できる」


私も、研修プログラムを企画したり講師として人前に立つ際に、恐れを感じるときがあります。

なぜなら、自分の誤りが、多くの人々の誤りに繋がってしまうからです。


だからこそ、星野社長の言葉に深い共感を覚えるのです。


「自分が人に伝えようとしていることは本当に正しいのか?」


そのような不安も「教科書」と向き合うことでかなり解消でき、自信を持つことが出来ます。


また、最近の若いビジネスパーソンは、仕事をする上で、意味や理由をもとめる傾向があります。

部下に対する教育や指導においても、上司が根拠となる理論を持っていれば、部下の「なぜ?」に明快な答えを提示できます。


星野社長も次のように言っています。


「もちろん、社員にも教科書の内容を説明していく。新しい戦略の理論的な背景を伝えることで、仕事の中身ややり方に対する社員の納得感は高まり、改革が進みやすくなる」


このように「教科書」で理論や定石を学ぶことはとても大切ですが、もちろんそれだけでは課題を解決することはできません。


やはり、「理論」に加えて、「理論を自分の状況に応用する力」が欠かせません。


よく「理論は抽象的で、『現場』では使えない」というような言い方をする方もいます。


しかし、それは理論が現場に通用しないのではなく、「理論を現場に応用する力」、言い換えれば「考える力」が不足しているということなのです。


星野社長は、「教科書」を考えながら何度も読み込んでいます。


「書かれている理論を理解すると同時に、『自社にどのようにあてはめればいいのか?』『どこを変える必要があるのか』と考えながら読む。自社の具体的な悩みを考えながら読んでいると、頭の中が次第に整理されていき、やがて打つべき対策が見えてくる」


私は、人材育成に「教科書」を活かす公式を以下のように考えています。


「教科書」+「問題意識」+「応用力」=打ち手


つまり、強い「問題意識」を持って「教科書」と向き合い自分の現場に「応用」すれば、適切な打ち手が見えてくるのです。


打ち手が見えてくれば、後はそれを実行していけば良いのです。


もちろん、すんなりと事が進まない場合もありますが、その時にはまた立ち止まって考えれば良いでしょう。

やはり、「理論を現場に応用する」ための答えがなかなか出てこない場合も多いと思います。


でも、それを諦めずに考え抜くことを続けることによって、「理論を現場に応用する力」に磨きがかかっていくのです。


実際に、星野リゾートが教科書を活かして様々な旅館やホテルの経営を立て直してきた事例については、「星野リゾートの教科書」に数多く紹介されていますので、興味のある方は読んで頂ければと思います。


では、「人を育てる」というテーマでは、どのような「教科書」を選べば良いのか?


それは、これからこのブログの「ブックコラム」でご紹介していきたいと思いますhappy01
ぜひ、気が向いた時にアクセスしてみて下さいconfident

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